上辺ではない「本当の自分」を救い出せ

CPR(心肺蘇生法)は、心臓以外の他の臓器は後まわしにして、ひたすら心臓と呼吸にのみ集中する応急措置である。心理的CPRも、同じだ。心理的CPRにとっての心臓に相当するのは、「“私”という存在自体」である。衣服やアクセサリーに相当する、対外的に何らかの形を装った、「上辺だけの自分」を脱がせて、「本当の自分」に相当する部分を強く刺激してやらねばならない。

ただし、人は時に「本当の自分」を見誤る。

たとえば、自分は周りの誰もが羨む人だったとする。にもかかわらず、自分の心は寂しく、不安でいっぱいだ。いったい、どちらが本当の自分なのだろう?

周りの人たちが評価してくれるから、自分は大丈夫だというのは「私が考えたこと」であり、寂しくて不安というのは「私の感情」である。私の考えが正しいのか、それとも私の感情が正しいのか。私の答えは明確である。常に正しいのは感情なのだ。「私の感情」は、「私」という存在の核に相当する部分である。したがって、「私」が大丈夫かどうかの判断は、「私の感情」をもって行うのが正しい。

核心の問いかけ「心の調子はどうですか?」

先ほどの女性の事例で、私が彼女に投げかけた「最近、心の調子はどうですか」という質問は、まさに彼女の存在の核を正確に射抜いた言葉である。「誰もが羨む女性」の近況を聞く言葉としてはまったく相応しくないが、彼女の美貌や経歴、学歴やキャリアといった、彼女という存在が身につけている装飾品をはぎ取り、「彼女の存在の核」である感情に注意を払い、その安否を真っすぐに問う言葉だったのだ。

女性
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「感情」あるいは「心」、それが、心理的CPRを施すべき正確な位置である。私が矢を射抜くように正確に彼女の存在の核、すなわち心の安否を尋ねた瞬間、彼女の中の「私」「本当の自分」はすぐに反応した。

その時から彼女は、自分の中にある「本当の自分」について、滔々とうとうと語り始めたのである。コンパやお見合いの席で、お目当ての相手に学歴や職歴、家族について話す時の「自分」は、「本当の自分」なのだろうか。もちろん、ちがう。出身校や、職場、趣味や嗜好、あるいは自身の価値観や信念ですら、その多くは「私」にとってアクセサリーのようなものである。誰かの価値観の受け売りだったり、影響を受けたりして、作られた部分が大きいからだ。一見「私」のように見えながら、どれも「本当の私」ではない。