作業後に「物を盗まれた」と通報され、事情聴取も

生活保護を受ける男性の整理費用は税金でまかなわれているため、石見さんは娘たちの不要品の処理を拒否した。すると「融通のきかない人」などと罵られ、最後には「役所にクレームを入れるから!」と捨てぜりふを吐かれたという。その日の作業は中止になった。

「筋が通らないことは受けられません」と、石見さんは力を込めて言う。

別の認知症の高齢者宅では、こんなこともあった。

「区役所からの紹介で片付けることになりましたが、部屋はゴキブリの糞だらけの不衛生な環境でした。区役所の担当者や本人の立ち会いのもとに作業を進め、本人に確認しながら物を処分したにも関わらず、作業後に本人が『物を盗まれた』と警察に届け出たのです。区役所職員とともに事情聴取を受けました」

のちにその疑惑は晴れたが、当初まるで“泥棒扱い”だったことに憤りを感じたという。

あるゴミ屋敷の廊下。この現場は趣味で集めたものが多かった。
あるゴミ屋敷の廊下。この現場は趣味で集めたものが多かった。

勢いよく棒が飛び出してきて、鼻から大量の出血

現場には危険もある。連載第1回で記したように現場で負った足の傷から細菌が入り込み、足切断となった作業員もいる。石見さん自身も大量出血をした経験がある。

「美容院で遺品整理を行った時のことです。パーマをあてるヘルメットのような器具を外す時に、その仕組みがわからず、不用意にボタンを押してしまったのです。中の棒が勢いよく飛び出してきました。それが鼻をかすめて肉が切れ、大量の血が噴き出し……。すぐ病院に運ばれたのですが、『あと2センチずれていたら失明していた』と言われました」

病院で15針を縫う処置を受けたが、翌日にはまた現場に戻ったという。

このように生前遺品整理業は、「きつい、汚い、危険」の連続である。それなのに、なぜこの仕事を続けられるのか。

あるゴミ屋敷の玄関。物がうずたかく積み上げられ、家の中に入ることも難しくなっていた。
あるゴミ屋敷の玄関。物がうずたかく積み上げられ、家の中に入ることも難しくなっていた。

社員の溝上大輔さんは特殊清掃について「遺族の代わりにやってあげているという気持ち」と言っていた。亡くなった人の体液や血液をふきとり、遺族がおだやかな気持ちで現場を見られる状態にすることが務めだ、と。しかし依頼人への思いだけで、過酷な現場を乗り越えていくのは厳しい。