「天井まで積もり、3分の2が生ゴミ」という現場も
私が初めてゴミ屋敷の現場に足を踏み入れたのは3年前だ。それ以降、生前遺品整理会社「あんしんネット」の作業員の1人として、さまざまな現場を片付けてきた。汚い現場を掃除した後は体調を崩したり、人が亡くなった現場を掃除した後は気分が優れない時もあった。
私は著書『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)の出版で、一連の取材に一区切りをつけようとしているが、特に社員の方々はこの仕事をずっと続けることになる。どんな思いで整理業を続けているのか。連載の締めくくりに、そのことを綴りたい。
作業員の間で「物が多い現場」はそれほど嫌われない。嫌われるのは「臭いの強い現場」だ。
あるアルバイトの男性作業員が「ほら笹井さん、真夏に行ったあの現場……」と言う。
「高級住宅街にあるアパートで、60歳男性が遺体で発見された部屋。あそこ、むちゃくちゃ生ゴミが多かったですよね」
私はうなずいた。たしかにその部屋は天井までゴミが積もり、その3分の2は生ゴミだった。私は1日目しか参加しなかったが、作業は数日間続き、彼は最終日までいたようだった。
だれもが「地獄みたい」と口を揃える過酷な作業
「ゴミ山の一番下からマフィンが出てきたんですよ。やばかったですよ、もう。カップラーメンとか菓子類ならぜんぜんいいんですけど。ほんと生ゴミをためるのは、かんべんしてほしい」
もっとも臭いが強烈なのは、本連載でも何度か取り上げたションペット(尿の入ったペットボトル)だ。ゴミ部屋でションペットを発見すると、それが破裂しないように専用のケースに入れ、社(あんしんネット)に持ち帰って一本一本中身を処分しなければならない。アルバイト作業員は誰しも、「地獄みたいな作業」と口にする。
「夏場のゴミ部屋」というだけで臭いがすさまじいのに、その空間に尿や便がしみこんでいるものがあると、大抵の人は気分が悪くなる。もちろん私もそうだった。実際に吐いてしまう作業員も目にした。水分摂取を控えがちなゴミ部屋住人の濃縮された尿がペットボトルに入れられ、場合によっては何年も放置されているのである。