先の通常国会で提出が見送られた「LGBT理解増進法案」。LGBTをめぐっては、一部の保守派議員が「種の保存に背く」などと発言して批判が殺到しました。なぜこうした発言が出るのか、発言の根底にある「妄想」とは何か。男性学の第一人者、田中俊之先生に聞きました――。
LGBT法案などについて議論された自民党総務会=2021年5月28日、東京・永田町の同党本部
写真=時事通信フォト
LGBT法案などについて議論された自民党総務会=2021年5月28日、東京・永田町の同党本部

頑なに抵抗し続ける人たち

LGBTなどの性的少数者をめぐっては、長い間、そうした人々の権利擁護や理解増進が叫ばれてきました。しかし、保守派議員の中には、こうした声に頑なに抵抗し続けている人たちがいます。

「生物学上、種の保存に背く」「体は男でも自分は女だから女子トイレに入れろとか、女子陸上競技に参加してメダルを取るとか、ばかげたことが起きている」──。彼らはなぜ、こんな差別的な発言をしてしまうのでしょうか。

差別発言の根底にある“伝統的家族像”という妄想

彼らの発言の根底には「家族崩壊=国家の危機」という大前提があります。その家族像は異性愛者を前提としたもので、人は結婚して子をなし同じ姓を名乗るべき、それが家族であるという考え方に基づいています。そうでなければ家族も日本の伝統も崩壊してしまい、国家が危機に陥るというわけです。

こうした考え方の人は一定数いて、実際、LGBT法も選択的夫婦別姓も、反対しているメンバーはほぼ共通です。それは日本の伝統的家族像とは違うから、伝統や家族の崩壊を防ぐために戦わなければならない──。彼らはそう考えているのでしょうが、それは単なる思い込みで、事実とは明らかに異なります。