小田急線刺傷事件犯人への擁護論、妊婦へのワクチン優先接種、コロナ感染者の自宅療養……。ジェンダー問題を研究する大正大学准教授の田中俊之さんは「一見かかわりのなさそうな一連の問題の根底には、ある共通した意識がある」といいます――。
小田急線車内で起きた殺傷事件のため、祖師ケ谷大蔵駅に駆け付けた警察官
写真=時事通信フォト
小田急線車内で起きた殺傷事件のため、祖師ケ谷大蔵駅に駆け付けた警察官=2021年8月6日、東京都世田谷区

女性だからという理由で暴力の対象に

8月、小田急線の電車内で30代の男が複数の乗客を襲う事件が起こりました。特に重傷を負ったのは20代の女性で、犯人は「(その女性が)勝ち組の典型に見えた」「6年ほど前から幸せそうな女性を見ると殺してやりたいと思うようになった」などと供述したと報道されています。

この供述に、恐怖を感じた女性も多いのではないでしょうか。女性だというだけで、ある日突然暴力を振るわれるかもしれないわけですから当然ですしょう。しかし、SNSなどでは「弱者男性の苦しみの表れ」などと犯人を擁護するような論も見受けられます。

擁護論が起きる理由

暴力はあらゆる人への人権侵害であり、それは被害者が男性でも女性でも同じです。犯人が弱者であろうがなかろうが、許されるものではありません。それなのになぜ、擁護論が起こるのでしょうか。擁護論を唱えている人が男性であれば、それは女性が抱く恐怖感への想像力が決定的に欠けているからだと思います。

この事件にはまだ不明な点もあるので、背景や犯人の心理について論じるのは時期尚早でしょう。ただ、女性が「女性だから」という理由で狙われる暴力事件があるのは事実で、実際これまでにいくつも起きてきました。ここでは、女性に対する暴力をどう考えるか、男性はどう捉えるべきかを考察していきたいと思います。