ハラスメントという言葉はかなり一般的になってきました。こうした時代の流れに反して、立場あるおじさんたちによる失言や問題行動が後を絶たないのはなぜなのでしょう。男性学の第一人者・田中俊之さんが彼らの心理に迫ります――。
悪意なき「メダルかじり事件」
東京オリンピックの女子日本代表選手に対して、立場ある男性たちによる2つの問題行動がありました。ひとつは名古屋市の河村たかし市長が、表敬訪問に来たソフトボール代表選手の金メダルを断りもなくかじった件です。
市役所には抗議が殺到し、市長は会見を開いて謝罪するとともに「嫌がらせの認識はなかった」「リラックスしてもらおうと思って」といったことを述べました。本人としては、悪意がなかったことを強調したかったようです。確かに、僕も噛んだ瞬間の動画を何度も見ましたが、そこに悪意は感じられませんでした。
しかし、悪意がなければいいのかと言えばそれは違います。市長の行動は選手の思いや尊厳を無視したもので、立派なハラスメントです。友達でも何でもない相手に恋人の有無をしつこく聞いたり、容姿についてとやかく言ったりするのも同じです。
「偉い」がゆえに時代の流れについていけない
今の時代、こうしたことはすでに常識になっていますが、市長はおそらく時代の変化に疎かったのでしょう。ハラスメントという言葉自体は知っていても、中身について真面目に考えたことはなく、そんなことはたいした問題ではないと思っていたのではないでしょうか。
市役所の職員ならハラスメント研修を受ける機会もあるでしょうが、市長は「偉い」がゆえにそうした機会がなかったのかもしれません。あるいは受けたのに興味を持てず、聞き流してしまったのかもしれません。
だからこそ時代遅れの感覚のまま、これで場が盛り上がるだろうとばかりに金メダルを噛んでしまった。そんなことが問題になるなんて想像すらしていなかったのではと思います。