※本稿は、黒川伊保子『不機嫌のトリセツ』(河出新書)の一部を再編集したものです。
子をなさないカップルが増えても、自然界には問題はない
あるとき、自民党の杉田水脈衆議院議員の「LGBTカップルには生産性がない」発言が、物議をかもした。
LGBT(レズビアン/ゲイ/バイセクシャル/トランスジェンダー)、すなわち性的マイノリティの人たちが、その性的指向によって差別を受けることは人権侵害に当たる、というのが、今の先進国の大半の見解である。宗教でそれを忌む立場の人でさえ、社会的に他の宗教の人々と共に生きることを受け入れるように、性的マイノリティを受け入れている。それが、21世紀という時代なのである。
愛し合って、共に生き、互いに財産を残したいという願いは、男女間であっても、男男間であっても、女女間であっても変わらない。結婚というものが、そういう気持ちの象徴なのであれば、まったく問題はない。
さらに、子をなさないカップルが増えても、自然界には、なんら問題はない。地球の人口は、今や80億に迫ろうとしている。私が大学で習ったときの地球総人口は40億ほどだった。ここ40年で約2倍に膨れ上がっているのである。自然界のバランスでいえば、多少子をなさないカップルがいても、しばらくやっていけるはず。
人口増加を念頭に置いている為政者の闇
しかし、この国の為政者にとっては、結婚=子ども=次世代の納税者の創出、なのだろう。政治と経済の仕組みが、人口増加を念頭に作られているから。とはいえ日本列島に安全に住める人数は限られている。いつまでも「右肩上がり」で行けるわけがないのに。
政治や経済の観点からいえば、生産性がないということになるのに違いない。杉田議員の発言は、ある意味、その為政者としての姿勢を露呈しただけだ。そもそも、「国が立ち行かなくなるから、少子化対策」とおおっぴらに政府は言っている。その流れからしたら、この発言は、当然の帰結という気がする。だから、私は驚かなかった。しかし、ぞっとした。この発言は、空恐ろしい。道に置いてあった板がずれたら、そこにぱっくりと深い闇の穴がのぞいた感じだ。