開発へ研究が進んでいる

足許で、ビットコインなどのデジタル通貨の価格が乱高下している。テスラのイーロン・マスクなどの発言で、注目を集めたビットコインは中国当局の監督強化などのニュースで価格が大きく変動しており、多額の損失を被った投資家も出ているようだ。

一方、5月20日、米国の中央銀行である連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は、今夏に中央銀行が発行し、管理するデジタル通貨〔中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)〕に関する報告書を公表すると表明した。過去のパウエル議長の発言と比較すると、“デジタルドル”の発行に向けFRBの取り組みは変化している可能性がある。

2020年12月1日、ワシントンDCのキャピトル・ヒルで開催された「The Quarterly CARES Act Report to Congress」に関する米上院銀行・住宅・都市問題委員会の公聴会で発言する米連邦準備制度理事会のジェローム・パウエル議長
写真=CNP/時事通信フォト
2020年12月1日、ワシントンDCのキャピトル・ヒルで開催された「The Quarterly CARES Act Report to Congress」に関する米上院銀行・住宅・都市問題委員会の公聴会で発言する米連邦準備制度理事会のジェローム・パウエル議長

そう考える背景には複数の要因がある。中央銀行にとってデジタル通貨は、金融システムの安定性や、社会と経済運営の効率性の向上に重要な役割を果たすと考えられる。他方で、デジタルドルの発行によって銀行の店舗が減り雇用機会が減少するといったマイナスの影響もあるだろう。海外中銀はデジタル通貨の実証研究などを進めており、FRBにとってもデジタルドルの研究を進める重要性は高まっている。

やや長めの目線で今後の展開を考えると、FRBによるデジタルドル研究は、主要先進国など世界の中央銀行が取り組むCBDC研究などに相応の影響を与えるだろう。足許、わが国では、日本銀行が中央銀行デジタル通貨の実証実験に取り組んでいる。今後、そうした取り組みは強化されていくだろう。

慎重姿勢から一転した背景

2021年3月にパウエル議長は「米国が、世界で最も早くCBDCを投入する必要はない」と述べた。その時点でFRBは、デジタルドルの発行に関して慎重、あるいは急ぐ必要はないと考えていたようだ。

なお、デジタルドルとは中央銀行デジタル通貨の一つであり、米国の法定通貨であるドルを電子化したマネーを言う。デジタルドルの価値は一定であり、価値の尺度、交換や決済の手段、価値の保存の機能を持つ。中央銀行デジタル通貨は国内のどこでも利用できる。

5月20日、パウエル議長はデジタルドルに関する報告書の公表予定に加えて、決済、金融包摂、データのプライバシー、情報セキュリティなどに関するパブリックコメントも募集すると発表した。その内容は3月よりも具体的だ。一つの見方として、FRBはデジタルドルに関する研究などをより重視するようになったと考えられる。