「絶対に風雨をしのげる完璧な屋根」はない

何年か前に『投資家みたいに生きろ』(ダイヤモンド社)という本を出しました。この「投資家みたいに」という言葉に込めたのは“自分が主人公になって”という意味。

大切にしたい世界、価値観に対して噓をつかずに、自分の心が「そうだ、こっちだ」と躍る方向へと突き進んでいこう、というメッセージを伝えたかったのです。

何も、「リスクが高い、劇的な挑戦をしよう」と言っているわけではありません。僕は起業家という生き方が好きだけれど、万人に薦めているわけでもありません。

会社員として50年生きる人生でも「自分を主人公にして生きる」ことは可能です。組織の一員であるという強みを存分に活かして、夢中になってチャレンジするハイパーサラリーマンを、僕はたくさん知っています(僕は彼らを“サラリーマンの虎”と位置付け、「トラリーマン」と呼んでいます)。

一方で、会社に入った途端、まるで首輪をつけられた飼い犬のようになって、「どこかに所属する人生」に全身を委ねてしまう人も、残念ながら少なくありません。

所属する会社が元気で明るいうちはハッピーに過ごせるけれど、僕たちは今、変化が激しく、未来が不確定な時代に生きています。「絶対に風雨をしのげる完璧な屋根」なんて、どこにも見つからないのです。

超有名な大企業に入ったとしても、3年後にも同じ環境が維持されているかはわかりません。

成功が約束されている場所は存在せず、正解のないゲームが続く。「はい、正解です!」と教えてくれる人はいないのです。

こんな不確定な社会の中に飛び込むのは怖いかもしれないけれど、君は人生の主人公なのだから、どんなふうにだって物語を変えられます。

面白い漫画や小説には必ず魅力的な主人公がいるように、君の考え方や選択次第で、人生はいくらでも面白くできることを、どうか忘れないでほしいと思います。

生きていることを死ぬまで楽しむ社長たちについて

僕の尊敬する人生の先輩である成毛眞さんは、マイクロソフト日本法人の社長を務めた後、たくさんの企業の経営にアドバイザーとして関わっています。

その成毛さんが、2020年10月25日にフェイスブックに投稿した「学生の諸君へ、(なにかがおかしいと感じているサラリーマンの諸君へ)」という文章に、僕は深く共感してSNSでシェアしたところ、多くの人から反響がありました。

ちょっと刺激的な内容かもしれませんが、ここに引用しますので、ぜひ読んでみてください。

いまボクが付き合っている連中の60%は社長たちだ。残りの40%は編集者、研究者、医者、芸者、勇者など、怪しい者業の面々だ。

その社長たちとは熱海の畳屋、江別の製麺屋、伊勢のクラフトビール屋、高山の瓦屋、気仙沼のセーター屋、赤坂の高級割烹屋、本郷の人間ドローン屋、番町のAI屋などなど、規模も業種もバラバラで、もちろん学歴もバラバラだが、いわゆる大企業サラリーマン社長はいない。

話をしていて、その社長たちはいつもクソ忙しく、体温が高く、多動性で、話題がとっちらかり、新しもの好きで、ケチくさく、いささか攻撃的で、ともかくバラッバラの個性で、生きていることを死ぬまで楽しむであろうと、感じるのだ。経験上、そのような属性の人が社長になったのではないと思う。社長という職種が人を変えるのだとつくづく思うのだ。

これからの学生は社長を目指すべきだと思う。40年も勤め上げて2年で交代する大企業の社長だけは論外だ。テクノロジースタートアップだけが有望な社長でない。家業があれば引き継いでガンガンやるべきだ。町中華の主人だって立派な社長だ。古い業種と思われているところにも面白い社長がたくさんいる。

中小企業といわれようが、輝くベンチャーと言われようが、たかがラーメン屋といわれようが、オタク農家といわれようが、不思議なことに社長たちはほぼ同じ属性であり、意外にも仲間意識があるということを学生は理解したほうがいい。大成功したベンチャー企業の社長は居酒屋の主人をリスペクトしているものだ。社長業という同じ職業の仲間だからだろう。それでもまだ、定年後にはつましく静かな余生の中で、過去のわずかな武勇伝にまどろむ高級サラリーマンを目指しますか。
(出典:「学生の諸君へ、(なにかがおかしいと感じているサラリーマンの諸君へ)」)