「後藤健二の作品」を誰か1人のものにしない

そんなNFTの仕組みに熱い視線を向けているのが、クリエーターのこうづなかば氏だ。

2015年、国際ジャーナリスト、後藤健二氏がシリアで拘束され、過激派組織のイスラム国に殺害されたショッキングなニュースを覚えている人も多いだろう。こうづ氏は、後藤氏とともに2009年、ジャーナリズムを現代アートとして作品化するプロジェクトthe chordを立ち上げ、後藤氏の撮影した難民キャンプや世界の紛争地域での風景、子供たちの映像をベースにアート作品を作ってきた人だ。

自身の作品「色鉛筆と少年」を手にするクリエーターのこうづなかば氏 写真=筆者提供
後藤健二氏とともに作った作品「broken boy(こわれた少年)」を手にするクリエーターのこうづなかば氏 写真=大門小百合

たとえば、silent dance(静なるダンス)という作品は、連日戦闘が続く西アフリカに位置するリベリアで、命を落とした少年の遺体が、遺体置き場用に掘られた砂の穴の中に回転しながら落ちていく画像を宇宙の背景とコラージュにし幻想的な作品に仕立てた。

報道写真や映像は現実を直視するため厳しいものが多く、決して多くの人が好んで見たいと思うものではないかもしれない。しかし、「アート作品になれば、どこか優し気だったり、不思議だったりするため、もっと幅広い層に届けることができるのではないかと思った」という。

2人は2011年に作品をニューヨークのアートフェアに出展した。初日、幸運にも少年兵を題材にした作品が売れたが、うれしさよりも罪悪感をもったそうだ。

こうづ氏の作品「少年兵」 写真=筆者提供
2011年、ニューヨークのアートフェアで売られた少年兵を題材にした作品「enemy(敵)」 写真=大門小百合

「本当に売ってしまってよかったのだろうか? 作品作りにはお金がかかっていて、活動費も必要だけど、作品に写っていた少年たちにはお金は還元されない。そして、売れた作品は買った人だけものになってしまった。その人の部屋には飾られるが、それ以外の人の目にはもう触れない。そんなことを2人で話して、結局、2日目以降、僕らは作品を売るのをやめたんです」

こうづ氏は、その時のことを振り返りながら、今後、自分たちの作品をNFT化したいと考えているという。NFT化することによって、もっとたくさんの人に見てもらうことができるのではないか、また、デジタルという形で作品が残るので、作品がより永遠性を持つようになるのではないかと感じているという。「NFTは社会性のある作品にこそ、合っているのではないかと思います」