モチベーションを維持するうえで、「how思考」という考え方はとても有効だと思う。たとえば、登山中に「なぜ(why)この山に登るのか」と考えても、足取りは軽くならない。それよりも「どうやって(how)登るのか」と考えてみる。すると、置かれた状況そのものを楽しめるようになる。「どうやって」には、自分で自由に考えられる余白があるから、それがワクワクする楽しい気持ちにつながっていくのだ。

新豊洲Brilliaランニングスタジアムにて
撮影=関健作

無邪気なモチベーションを保つ方法は、人それぞれ。「社会の役に立つ」と思えるときに、モチベーションが上がる人もいるだろう。みんなに感謝されることが原動力になる人もいれば、とにかくモテることがやる気につながる人もいる。「やる気スイッチ」は、一人ひとり違う場所にある。だからこそ、「この状態に入ったときに、自分はがんばることができる」ということは何か、自分自身で探っておこう。

幸せの鍵は「なにげなさ」にある

「幸せ」って、人それぞれ。そうは知りつつも、なんとなく「お金持ちになる」「社会的に影響力をもつ」といった、目に見える成功が「幸せ」につながっていると、人はどうしても考えがちだ。

為末大『為末メソッド 自分をコントロールする100の技術』(日本図書センター)
為末大『為末メソッド 自分をコントロールする100の技術』(日本図書センター)

でも、成功している人って、ほんの一握り。そう気がついてもいるはずだ。「いつかは成功できるんだ!」と夢を見ながら幸せを保つのは、もはや厳しい世の中になってきている。ならば、そんな時代に、僕たちはどんな幸せを追い求めればいいのだろう。

幸せとはもうちょっと、本能に近いところで感じるものではないか。僕はそんなふうに思う。食べること、睡眠、性に関すること、肌で感じるもの――。最近、僕がもっとも幸せを感じるのは、海辺で風に吹かれて、ボーっとしているときだ。ただ風に吹かれて、何を考えているわけでもない時間が幸せなのだ。そういう「なにげない」ことこそが、幸せに近づく鍵なのではないだろうか。

それから、「加速しないもの」を幸せの基準にもつと、人間は幸福を維持しやすいと思う。「加速しないもの」とは、たとえば、「仕事終わりの1杯のビールが美味い!」という感覚のことだろう。その瞬間の、その一杯が美味い。それだけで満たされる。たったそれだけのものだ。幸せの鍵は、なにげなくて、加速しないものにこそ、隠れているものだと思う。

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