目標に向かって努力を続けるのは大事なことだ。一方、その努力はいつまで続ければいいのだろうか。オリンピアンの為末大さんは「『途中で投げ出すのは悪い』と考えていると、人生は生きづらいものになる」という。為末さんが考える、人生を楽しむための7つのルールとは——。

※本稿は、為末大『為末メソッド 自分をコントロールする100の技術』(日本図書センター)の一部を再編集したものです。

1.人生を楽しむために、「一番」を目指す

「ナンバーワンではなく、オンリーワンを」と言う人がいる。自分らしく、他人と違う自分になろう――。そんな考え方なのだと思う。でも僕は、「オンリーワン」を目指すより、「ナンバーワン」を目指したほうが、人生は楽しいと思っている。

なにも「一番にならないといけない」と言っているわけではない。一番を目指して、実力を磨く。その過程を楽しんでほしい。それができる人は、たとえ勝負で負けてしまっても、悲壮感を抱えずに済むはずだ。

「一番になりたいよね」という言葉と「一番にならなきゃね」という言葉は、似ているようでいて、意味することが大きく違う。後者のように「勝たなければ意味がない」という思いで「一番」を目指していくことは、苦痛でしかないだろう。一番はあくまでも「目標」にすぎないのだ。そこに向かって本気で挑戦することは、間違いなく楽しい。僕はずっと、陸上競技で一番を目指してきた。だからそう、断言できる。

世の中にはもう、たくさんの才能があふれている。新しい「オンリーワン」になることは、いまある分野の中で「ナンバーワン」になるよりも、よっぽど難しい。覚悟を決めなければ挑めない、いばらの道だ。だから、「オンリーワン」へのこだわりがないのであれば、素直に「ナンバーワン」を目指してみよう。そんな人生のほうが、きっと楽しい。

2.競争から逃げない。比べてみることで、自分の等身大を知る

僕は、人と競争してみることで、自分の「等身大」を知ることが大切だと思っている。なにも勝つことだけを目標にして、競争に参加するわけではない。競争してみることではじめて、自分自身の能力や得意不得意が見えてくるものだと思うのだ。

いざ競争してみたら、思ったよりもいい成績が出て「俺、けっこうやれるじゃん!」と自信を得ることがある。反対に、まったく歯が立たなかったとき「この分野では自分は勝てないから、違うところで勝負しよう」と、早めに判断することもできる。つまり競争は、自分自身のことを知るための有効な手段なのだ。競争から逃げていては、いつまでたっても自分の等身大を知ることはできない。

誰もが平等な能力をもって生まれてきているわけじゃない。競争は、そんなことも教えてくれる。そういうシビアな現実を、身をもって知っている人ほど、人にやさしくできるものではないだろうか。