※本稿は、為末大『為末メソッド 自分をコントロールする100の技術』(日本図書センター)の一部を再編集したものです。
「向いていない」のではなく、「慣れていないだけ」と考える
人には誰しも、「向いていない」ことがある。資料づくりが苦手とか、球技はどれもうまくできないとか。でも、その向き不向きの判断を、急ぎすぎていることはないだろうか。少しやっただけで「向いていない」と決めつけるのではなく、「慣れていないだけ」と考えて、チャレンジしてみよう。
苦手意識があっても、やっていくうちに慣れて、うまくこなせるようになることは、よくある話だ。何度か経験を積んでみると、パターンが掴めてきて、気後れせずにできるようになるのだ。「向いていない」という思いを、経験による「慣れ」で埋めていくようなイメージをもてるといいかもしれない。
もちろん本当に「向いていない」ということもありえる。「向いていない」のか「慣れていない」のかを判断する基準として、その分野で実績のある人を見てみることをすすめたい。はじめは「かなわない」と思ったとしても、その人に近づけるよう、一応努力してみる。一定の期間が過ぎたときに、続ければ追いつけるのか、がんばっても追いつけないのか、自分自身で判断を下すのだ。
前者なら、慣れていなかっただけ、後者なら、向いていなかったと考える。一度、誰かを追いかけてみることで、その人との距離が、肌感覚で見極められるようになってくるのだ。その山は挑みがいのある山か、自分自身に問いかけてみよう。
なんでもひとりでやりすぎない
陸上を引退して、会社を立ち上げて数年間、あることに悩みつづけていた。僕は強烈に、事務仕事が苦手なのだ。しかも、「会社のことは、経営者がすべてやるべき」という考えが強かった。陸上選手時代はコーチもつけず、なんでもひとりでやってきたからかもしれない。その考えから抜け出せず、事務仕事に取り組んで、失敗して落ち込んで……という負のサイクルを繰り返していた。
でも、ある日突然、解決策に気がついた。「これ、得意な人にやってもらえばいいんだ!」。いま考えれば当たり前のことだけど、当時は強い衝撃を受けたものだ。ハードルで言えば、9台目と10台目を他人に任せられる。僕は8台目までを極めればいい。「こんなことがあっていいのか」とビックリした。僕はそれ以降、事務仕事を得意な人に任せるようになった。
社会には、自分の苦手なことを、いとも簡単にこなしてしまう無数のスペシャリストがいる。それならば、苦手なことはきっぱりとギブアップして、彼らに任せてしまうのもひとつの手だ。ギリギリになって「できませんでした」では致命傷になってしまう。だから、勇気をもって早めに切り上げることも、大事な選択なのだ。