世界陸上で銅メダルを獲得した為末大さんは、ストイックに練習に打ち込む姿が世間に広く認知されてきた。だが、ある日を境に「『みんなに好かれなくたっていい』と開き直ることにした」という。その理由とは――。

※本稿は、為末大『為末メソッド 自分をコントロールする100の技術』(日本図書センター)の一部を再編集したものです。

為末大さん
撮影=関健作
為末大さん

嫌われることを先延ばしにしない

誰にでも「人の好き嫌い」はある。こればかりは、どうしようもない。つまり、一定の確率で必ず他人に嫌われるということだ。僕は「どうせ嫌われるんだったら、早めに嫌われておいたほうがラク」と考えている。

世界陸上で銅メダルを獲得してから、一気に僕の顔が世間で知られるようになった。それ以降の僕は、無難な発言ばかりを繰り返すようになっていった。「次の世代にいい影響を与えたい」「一生懸命走ります」。一方で、「絶対負けたくない」という本音が言えなくなった。そんな言葉だけでも、嫌悪感を抱く人がいるからだ。

自分の影響力が強くなってくると、僕は「嫌われたくない」という気持ちに縛られはじめた。するとメディア上での僕が、僕自身からどんどん離れていく。今度はそれが、たまらなく嫌になった。

「みんなに好かれなくたっていいや」。僕はあるときを境に、そう開き直ることにした。そうしたら、とてもラクになった。

とはいえ、「嫌われたくない」という気持ちは誰にでもある。だから「この人にだけは」と、条件付きにしておく工夫をしよう。尊敬できる先輩や恩師、有名人でもいい。「こんなことをしたら、あの人は怒るな」とか「あの人なら、評価してくれるかな」と考えてみる。その人にだけ、嫌われないように行動する。すると、知らない誰かに嫌われることなど、どうでもよくなってくるはずだ。

こまめにがっかりさせておく

人は相手に「キャラ」をつけることで、どこか安心しているところがある。競技生活中の僕の場合、ストイックでクールなキャラをつけられていたように思う。僕自身もそれを気に入って、自分からハマりにいっていたところもあった。するとまわりも、僕がキャラ通りに振る舞うことを、さらに期待する。それはまるで「一発ギャグ」みたいで、だんだん「ルネッサ~ンス♪ってやってよ」みたいになっていくのだ。

よりクールで、よりストイックな僕に対する期待は、どんどん加速していく。すると「そうじゃない自分」を表に出せなくなる。正直、僕はクールではないのに、おちゃらけたことは言いづらくなっていった。キャラを保っていくために、無理をする。それってとても疲れることだ。