「自己分析すれば『本来の自分』がわかり、正しい戦略を導き出せる」と考える人もいるだろう。僕はそれとは真逆の考え方をしている。「自分」も、もっと言えば「世の中」も、常に移ろいゆくもの。だから怪しいし、何もわからない。戦略なんてない。「いろいろやってみて、見えてきたものに、臨機応変に対応していくしかないよね」と考えている。「本来の自分」にこだわらず、「世の中こうあるべき」とも考えず、環境によって柔軟に変化していったほうが、うまくいきやすいと思うのだ。

新豊洲Brilliaランニングスタジアムにて
撮影=関健作

本当に「いつも」なのか考える

「あの人、いつもこうだよね」「自分はいつも○○だ」。こんなふうに「いつも」という言葉は、マイナスの意味で使われることも多い。それは「いつも」という言葉に、「いままでも、今後も、決して変わらない」というニュアンスが含まれているからだ。だからこそ、心の中で問いたい。「それって本当に『いつも』なの?」と。

たとえば、言い争いをする中で「キミはいつもこうだ」という言葉が、相手を深く傷つけてしまうことがある。それはその言葉に「キミには常にこの問題がついてまわる」「そしてそれは、今後も変わらない」という意味が含まれてしまうからだ。自分の存在そのものを責められているように感じれば、誰だって傷つくだろう。

為末大『為末メソッド 自分をコントロールする100の技術』(日本図書センター)
為末大『為末メソッド 自分をコントロールする100の技術』(日本図書センター)

人は誰かの性格を「いつもこうだ」と決めつけがちだ。でも、人の性格は変化するし、見えている性格は一面にすぎない。「案外そんな人じゃなかった」なんて、よくある話だろう。

人の性格を決めつけるクセは、早めに直したほうが得策だ。

自分自身の性格だって、「いつも同じ」と思わないほうがいい。意外に思うかもしれないが、最近の僕の性格を一言で言うなら「そんなに勝ちたいわけじゃない」。勝つことにこだわりつづけた競技人生を終えたいま、性格が変わったのだ。その人は、本当に変わらないのか。

その状況は、本当に変えられないのか。「いつも」のほとんどは、いつもじゃない。

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