ギリギリで自分を保つ10代の悩みに向き合う900人のボランティア

10代には学校と家庭が主な世界。その両方で本当の自分を出せず、楽しいと感じられていないと、先の希死念慮にとらわれやすいという。

「大人も思春期にはそんなモヤモヤを感じてきたはずです。ここからは私の想像ですが、彼は学校で会うと、とても利発そうな優等生だと思います。でも、部屋に一人でいると『死にたい』とも思う。その漠然としたモヤモヤをすぐに拭い去る解決策はありません。ですから、私はそのモヤモヤを彼と共有しながら、これからも伴走するような存在でいたいと思っています」(高山)

この対話の後は、彼が最近好きな音楽の話で急に冗舌になり、高山は彼が好きだというバンドの歌を、後で聴くと約束して相談を終えた。午後10時頃に始めて約2時間。その後も彼との対話は続いているらしい。

(右)iPadで相談依頼の画面を開きながら、パソコンで作業。緊急対応が必要な相談にはすぐに手を打つため。(左上)「あなたのいばしょ」宣伝用ポスターの一部分。(左下)将来の夢は幼児教育を受けられる保育園を開くこと。夢に向けて、今からぬいぐるみを集めている。
撮影=黒坂明美
(右)iPadで相談依頼の画面を開きながら、パソコンで作業。緊急対応が必要な相談にはすぐに手を打つため。(左上)「あなたのいばしょ」宣伝用ポスターの一部分。(左下)将来の夢は幼児教育を受けられる保育園を開くこと。夢に向けて、今からぬいぐるみを集めている。

「10代で『もう死ぬしかありません』という方の話を聞くのは、相当な覚悟がいります。先の事例のように2時間近くになることも多い。まずは信頼関係をつくり、次第に相談者の悩みを探っていきます。『死にたい』という気持ちなら受け止め、共有できると、『ホッとしました』と返事をくれることもあります。話を最後まで聞いただけで、『こんな遅くまで付き合ってくれて、ありがとうございます』と、お礼を書いてくる子もいます。そんな返事をもらうと、私自身もとても満たされますね」(高山)

30代でワンオペ育児に苦しんだから相談される側になった

20年7月に彼女が相談員ボランティアを始めた理由は、30代でワンオペ育児に苦しんだからだ。大空の言う「望まない孤独」だったと気付いた。40代になって子育てにも少し余裕ができた今、自分にできる社会貢献活動がしたいと応募した。相談員を始めてから、自身の家族との会話にも変化が生まれているという。

「子供から相談されると、親はすぐに答えを与えて、早急に解決しようとしがちですよね。以前の私もそうでした。でも、実は子供ってその日起こった出来事を、お母さんやお父さんにただ聞いてほしいだけではないか、と最近は思えてきました。最後まで話を聞くだけで、うちの子供たちはとても満足そうです」

仕事が立て込むと、余裕がなくなり難しいこともある。だが、子供の話を否定せず、きちんと聞こうと心がけていると、子供は以前よりも、たくさん話をしてくれるようになったともいうダメ出しばかりの母が子育ての反面教師この1月から相談員を始めたばかりの、会計士の川西夏実(仮名・39)は、20代女性とのチャットが印象に残っている。他人と自分をつい比べてしまい、自信がなかなか持てないという相談だった。

「そういう問題は、家族や友人にも相談しづらいですよね。私も似たような経験をしたことがあるので、親近感を覚えました。比べるのは仕方ないとしても、その受け止め方にはいろいろあるとお答えしたら、相談者から『少し角度を変えると、悩みの見え方も違いますね』と感謝されて、うれしかったですね」