中学入試と高校・大学入試との差は何か。多くの場合、人生初の受験となる小学6年生が本番で実力を発揮できるかどうかは親の影響が大きい。中学受験塾代表の矢野耕平氏は「ある母親が受験直前の緊張感のあまり冷静さを失って子供に罵声を浴びせたため“安全校”に落ちたものの、その後に緊急対策を打って“挑戦校”に合格した事例もあった」。そこにはどんな教訓があるのか――。
合格の文字の入ったハチマキと夜食
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「まさかの不合格」直後に「まさかの難関校合格」果たした実例

2021年度の中学入試が終了した。

コロナ禍でおこなわれたにもかかわらず、首都圏の中学入試は受験者数が前年とほぼ同じとなるなど、激戦の様相を呈した。一般的に、中学入試で第一志望校の合格を射止めることができる子は、3人に1人、もしくは4人に1人と言われる。

国語・算数・理科・社会のペーパーテストの結果で合否が決まることが多い中学入試は、事前に受験していた模擬試験の点数や合格判定でその結果が占いやすい。

しかし、長年中学受験指導現場に携わっていると、事前の予想を良くも悪くも覆す「まさかの合格」「まさかの不合格」を経験することもある。今回は、わたしの塾に通っていたひとりの男の子の身に起こった「まさかの不合格」「まさかの合格」を紹介しよう。

「ウチの子が落ちたのは、塾の先生のせいです」電話ガチャ切りの母

何年も前、東京都在住のAくんという中学受験生の話である。

彼は2月1日からの都内私立中学校の入試に備えて、ひと足早く、1月から本番が始まる埼玉県と千葉県にある私立中学校の入試を受けた。1校目の埼玉県の中学は、彼の「持ち偏差値」より3ポイント下で「合格率80%」の判定が出るいわゆる「安全校」だ。

塾サイドとしてはよっぽどのことがなければ合格するだろうと踏んだものの、結果はまさかの「不合格」。その不合格の報をAくんの母親から電話で受けた講師によると、その母親は興奮気味にこう言い放ち、電話をガチャ切りしたらしい。

「もうウチの子の入試の応援に来ないでもらっていいですか? ウチの子、塾の先生が校門の前にいるだけで緊張しちゃうみたい。だから、落ちたんじゃないですか」

今年度はコロナ禍の影響で塾講師たちが自塾の生徒たちが受験する入試当日に校門前で激励する、いわゆる「入試応援」はなくなったが、例年行われている恒例行事だった。

件のAくんは「人生初の受験」だったが、親も子供を初めて試験会場に送り出す経験をしたわけだ。いきなりの不合格にうろたえる心情は理解できる。申し訳ない思いも抱いたが、不合格の原因が校門まで足を運んだ塾講師にあると決めつけるその「混乱ぶり」が気にかかった。