人間の性格には、脳内の異変が関わっているという。鳥取大学医学部附属病院精神科の兼子幸一教授は「山陰地方の人は自己主張をはっきりしない傾向にある。育って来た来歴は脳と心に大きく関わる」という――。

※本稿は、鳥取大学医学部附属病院広報誌『カニジル 6杯目』の一部を再編集したものです。

老いと結びつけると、脳の異変を見逃す危険性

手術灯が医師の手元を照らしている。全身をシートで包まれた患者が手術台に横たわる。全身麻酔により既に意識はない。2人の医師が頭蓋骨を開くために穴を開ける作業が始まった。

鳥取大学医学部附属病院脳神経外科の黒﨑雅道教授(写真左)。「手術しておわりではない。人とのつながりに支えられている」(撮影=中村治)
鳥取大学医学部附属病院脳神経外科の黒﨑雅道教授(写真左)。「手術しておわりではない。人とのつながりに支えられている」(撮影=中村治)

ドリル音が室内に響く。

手術台の脇には30インチほどのモニターが設置されている。カメラで撮影した脳内のある部位を映し出すのだ。

これから覚醒下手術が行なわれる。覚醒下手術とは、手術中に患者を起こして意識がある状態で行なう特殊な手術だ。

患者は2時間後に覚醒する予定だという。全部で8時間ほどかかる大手術だ。

全身麻酔をした患者を手術中にわざわざ起こすとは、一体どういうことなのだろう。

私たちは前日にとりだい病院(鳥取大学医学部附属病院)脳神経外科の黒﨑雅道教授に手術のあらましを聞いていた。黒﨑教授によると、脳腫瘍のうしゅようは、腫瘍が脳のどの部分にあるかによって、術後に起こり得る合併症が異なる。例えば、手足を動かし言葉を喋る機能を司る「前頭葉」の悪性腫瘍を取る際に前頭葉の組織も一部取り除くことになる。そこで、手術の途中段階で患者が意識を取り戻した状態にし、発語や手足の動きに影響が出ていないかどうかを確かめながら慎重に除去を進めるのだ。

覚醒下手術は命を救うだけでなく、患者の社会生活を見据えた機能温存を最大限に図る、比較的新しい手術手法だ。1995年、当時鳥取大学医学部脳神経外科の堀智勝教授が関連施設で日本で初めて施術。現在は全国約50の病院で行なわれているという。

脳を扱う難しさの一つは、異変の原因がつかみづらいところだ。そう黒﨑教授は指摘する。

「脳腫瘍は、腫瘍ができる場所によっては、性格の変化やそれまでになかった言動が見られるようになるなどの異変が起こります。最初は脳腫瘍と分からずに精神科を受診された患者さんが、MRI(核磁気共鳴画像法)を撮ったところ腫瘍が見つかって、我々脳神経外科に紹介されることは珍しくありません」

脳に腫瘍ができることによって、怒りっぽくなる、物忘れがひどくなるなど、性格に影響することがある。そのため、短絡的に老いと結びつけるのは、ときとして脳の異変を見逃す危うさにつながるという。