吉本興業の大﨑洋会長は2011年より、全国47都道府県に芸人を派遣している。もともと2億円の赤字を見込んでいたというが、なぜ実施に至ったのか。鳥取大学医学部附属病院の原田省病院長が聞いた――。

※本稿は、鳥取大学医学部附属病院広報誌『カニジル 6杯目』の一部を再編集したものです。

東京でずっと暮らしていると「バランス」が悪くなる

【原田省(鳥取大学医学部附属病院長)】大﨑さんが坪田信貴さんと出された『吉本興業の約束』(文藝春秋)を読ませて頂きました。この本では〈吉本が考える地方創生〉と1章を割いて、地方創生に触れられています。そこで是非、大﨑さんに米子と病院を見て頂きたいと思ったんです。大﨑さんが“地方”を気に掛けるようになったのはいつ頃からなんですか?

鳥取大学医学部附属病院の原田省病院長(左)吉本興業会長の大﨑洋氏(右)
撮影=中村治
鳥取大学医学部附属病院の原田省病院長(左)吉本興業会長の大﨑洋氏(右)

【大﨑洋(吉本興業会長)】ぼくは大阪の堺で生まれて、なぜか吉本興業(以下吉本)に入りました。入社して6年目に会社が東京で事務所を作るっていうので、レンタカーを借りて布団とか積んで東京に行ったんです。

【原田】漫才ブームの頃ですね。

【大﨑】ええ。それでバタバタして気がついたら、もう何十年も経っていた。あるとき、新宿の(JR)ガード下で電車の通る音を聞いて、突然、昔を思い出したんです。こんな音、子どもの時以来、聞いていなかったなぁって。なんか東京でずっと暮らしているとバランス悪いなと思うようになったんです。

【原田】私は出張でしばしば東京に行きます。東京は便利で魅力的な街ですが、日本の中で特別な場所。東京を標準に考えることはできないと思います。

47都道府県に契約社員一人ずつを雇うプロジェクト

【大﨑】それで十年前の(2010年)12月頃に、東京の下町の本郷で、今の社長の岡本(昭彦)君と銭湯に行って、サウナに入っていたんですよ。するとNHKで、地方が疲弊していて若者が働く場所がないというニュースが流れていた。隣りに座っていた岡本君に「お笑いって産業にもならへんし、沢山の雇用を創出するわけではないけれど、47都道府県に契約社員一人ずつ雇って、地方から大阪や東京に出てきている芸人を住まわせたら、おもろいんちゃうか」って話したんです。

【原田】それが「47都道府県住みますプロジェクト」となった。

【大﨑】(2011年)1月4日に吉本のホームページに、プロジェクトを始めます、契約社員募集しますって載せました。そうしたら、5千人ぐらい募集があったんです。その中から面接して47人採りました。4月1日、(通常採用の)新卒の子たちと一緒に入社式をしました。そうしたら、〈住みます社員〉の子たちが、胸張って、地元のため、故郷のために頑張りたいと言うんです。その思いと熱量に驚きました。