※本稿は、鳥取大学医学部附属病院広報誌『カニジル 5杯目』の一部を再編集したものです。
患者の2割が重篤化する肺炎のヤバさ
これはいけん、やばいウイルスに違いない。
鳥取大学医学部附属病院感染制御部の千酌浩樹は心の中で呟いた。
昨年12月に中国湖北省武漢市で新型コロナウイルス(COVID-19)が発生、1月23日、武漢市当局は、感染拡大を防ぐため公共交通機関を一時閉鎖すると発表。多数の中国人が国内外を移動する旧正月――春節を前にして街を閉鎖したのだ。
千酌はこう思ったのだと振り返る。
「これは(中国政府の)本気だ。まだ出てこない情報が山ほどあるに違いない」
この時点で日本の危機感は薄かった。1月末の段階で、日本、タイ、香港などの15カ国で感染例が報告されていたが、その多くは武漢市からの旅行者。日本の感染者数は十数人で軽症。通常のインフルエンザと同等、あるいはやや強い程度という認識だった。
千酌の疑念が裏付けされたのは翌2月上旬のことだった。アメリカが14日以内に中国本土を訪問した人間の入国を禁止した。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は重要な情報を掴んでいるのかもしれない、だからこそこれだけ迅速に行動したのだと感じた。
直後の2月17日、武漢の研究者が『The Epidemiological Characteristics of an Outbreak of 2019 Novel Coronavirus Diseases(COVID-19)』という論文を発表した。それによると2月11日までに陽性反応した患者4万4672人のうち、80.9パーセントが軽度の症状だという。
「8割が軽症だとされていましたが、逆に言えば2割は重篤化するんです。ぼくは30年間、呼吸器内科をやってきましたが、2割も重篤化する肺炎って知らない。ぼくたちからすればとんでもない話なんです」