2020年1月、イランのソレイマニ司令官が米空軍に爆殺され、日本の多くのメディアは「イラン国民は怒っている」と盛んに報じた。しかし駿台予備学校の世界史科講師の茂木誠氏は「実のところ、それほど単純な話ではない。ステレオタイプな報道にだまされてはいけない」という――。
※本稿は、茂木誠『世界の今を読み解く「政治思想マトリックス」』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
イラクを訪問中に爆殺されたイラン精鋭部隊司令官
2020年1月、イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のガセム・ソレイマニ司令官が、アメリカ空軍の無人機によって殺害されるという事件が起きました。
イラクの首都バグダッドを訪れたソレイマニ司令官が、イラクの反政府勢力であるカタイブ・ヒズボラの司令官と一緒に車に乗り込みました。そこに、アメリカ軍のミサイルがぶち込まれたのです。
イラクでは、2019年末からカタイブ・ヒズボラの反米テロ活動が活発になっていました。カタイブ・ヒズボラが米軍施設をミサイル攻撃すると、アメリカがカタイブ・ヒズボラの施設にやり返す。それがイラク国民の反米感情に火をつけ、バグダッドのアメリカ大使館襲撃へと発展しました。
報復はそれで終わる気配を見せず、アメリカ人や米軍施設への攻撃計画もうわさされていたのです。エスカレートするイランの破壊活動を阻止するために、指揮権を握るソレイマニ司令官を殺害した。これが直接的な理由です。
イスラエル情報機関が居場所を教えたか
では、アメリカはどうやってソレイマニ司令官の居場所を正確に把握できたのでしょうか。
情報を提供したのは、おそらくイスラエルの情報機関であるモサドです。イランを脅威に感じるイスラエルは、コッズ部隊の動きを常に監視し、その情報をアメリカの情報機関に渡していたのでしょう。あるいは、イランの現政権内部にアメリカの協力者がいた可能性もあります。いずれにせよ、ソレイマニ司令官の居場所はトランプ政権に筒抜けだったのです。