司令官の死をむしろ歓迎する人々

その一方で、政権の中枢にいる人たちは別のことを考えているはずです。

思い出していただきたいのは、ロシア革命の世界輸出を画策したトロツキーがどうなったか、ということです。資本主義諸国との共存を模索するスターリンは、世界革命に固執するトロツキーのことが邪魔になりました。彼の一派を弾圧して、逃亡先のメキシコにまでテロリストを送り込んで殺害してしまいます。

この時、仮に、トロツキーの隠れ家をアメリカ軍が空爆して、トロツキーを殺していたらどうなっていたでしょうか。

スターリンは表向き、「アメリカ帝国主義を許さない!」と国民の反米感情をあおったでしょう。しかし、おそらく心の中ではアメリカ軍に感謝したはずです。「アメリカさん、邪魔なトロツキーを始末してくれてありがとう!」

イランの状況もこれと同じなのです。ソレイマニ司令官の殺害に憤慨するふりをして、喜んでいる人たちがイランの政権内に必ずいます。口に出しては言わないけれど、ソレイマニが消えてホッとしている人たちがいるはずなのです。

全面戦争になれば負けるのはイラン

例えば、最高指導者のハメネイ師はどうでしょうか。

血気盛んなコッズ部隊がイラン革命を周辺国にガンガン輸出すれば、アメリカの怒りを買うのは必至です。アメリカとイランが全面戦争に突入すれば、軍事力で負けるのはイランです。そうなれば、イラン革命の成果はすべて失われてしまいます。ハメネイ師は、そのことを十分に理解しているはずです。

国民向けには、「私はアメリカに屈しない!」と毅然きぜんとした態度で言い放ちますが、まともにアメリカと喧嘩けんかして勝てるはずがないことは、彼自身もよくわかっています。

ところが、革命防衛隊の暴走が止まりません。中東のあちこちでコッズ部隊がトラブルを起こしています。彼らの作戦のすべてをハメネイ師が認可しているとはとても思えません。コッズ部隊の暴走にはハメネイ師も手を焼いているのではないでしょうか。その意味で、ハメネイ師は、関東軍の暴走に手を焼いていた昭和天皇に重なります。

ソレイマニ司令官が殺害されて一番胸をなで下ろしたのは、実はハメネイ師なのかもしれないと、私は想像します。