なぜアメリカはイランをここまで警戒するのか

それにしても、アメリカがイランをここまで警戒するのはなぜでしょうか。イラン革命自体はイラン国民が選択した結果ですから、他国が口を出すことではありません。また、いまさらイランを親米王政に戻すのは不可能でしょう。

茂木誠『世界の今を読み解く「政治思想マトリックス」』(PHP研究所)
茂木誠『世界の今を読み解く「政治思想マトリックス」』(PHP研究所)

ただし、イラン革命が周辺国に輸出されるとなれば、話は別です。イラン革命が中東諸国へ波及して反米政権が次々に誕生すると、アメリカ資本が中東から追い出されてしまいます。これまで営々と築き上げてきた中東での利権を、手放さなければならなくなるのです。

アメリカは、中東に親米政権をたくさん打ち立てて、石油やガスの利権を独占してきました。イラク戦争でサダム・フセインを倒したのも、本質的には石油利権の回収が目的でした。戦後、イラクのシーア派政権を事実上アメリカの従属国にしたことで、アメリカの石油会社がイラクの油田を確保することができました。

もう一つの要因は、イスラエルです。イスラエルはユダヤ人国家ですが、世界最大のユダヤ人口を抱えているのは、実はアメリカ合衆国なのです。

これは、欧州やロシアで迫害されたユダヤ人がアメリカへ移住したためで、彼らの多くはニューヨークに拠点を置き、国際金融資本やマスメディアのオーナーとなって、アメリカ世論を動かす力を持っています。彼らはアメリカ国民ですが、イスラエルとの二重国籍を持つ者も多く、「心の祖国」であるイスラエルの安全を第一と考えます。

よって、イランがイスラエルを脅迫することが許せないのです。

報道が伝えないイラン指導層のホンネ

ソレイマニ司令官は、イラン国内では人望の厚い人物でした。数々の戦闘を勝利に導いたイランの英雄であるだけでなく、人徳があり、ワイロも一切受け取らない、素晴らしい人。だから、彼がアメリカの空爆で痛ましくも殺害されて、イラン国民は怒っている――。

こうした“いかにも”といったニュースが盛んに流布されました。

しかし、実のところ、それほど単純な話ではないのです。ステレオタイプな報道にだまされてはいけません。

イラン国民の悲しみや怒りは本物ですが、イランの革命政権はこの事件を大々的に報道することで、国民を反米で一致団結させるために利用しようとしています。これはプロパガンダです。