※本稿は、柳澤健『2016年の週刊文春』(光文社)の最終章「文春オンライン」を再編集したものです。
2017年時点では『文春オンライン』は第3グループだった
二〇一七年末、『文春オンライン』のPVは五〇〇〇万に達し、翌年も同程度の数字で推移した。決して悪くない数字だが、収益を上げるまでには至っていなかった。
当時、出版社系サイトのトップは『東洋経済オンライン』の約二億PV。それに続くのが『NEWSポストセブン』(小学館)や『アエラドット』(朝日新聞出版)の一億PV弱。『文春オンライン』は第三グループに位置していた。
ここを抜け出さなければ儲からない。竹田直弘(文春オンライン編集長)はそう感じた。
『文春オンライン』の記事の割合は、『週刊文春』と月刊『文藝春秋』と書籍からの転載が半分、オリジナル記事が半分というところ。
データを見ると、『週刊文春』のスクープ速報がPV獲得のエンジンとなっていることは明らかだった。特集記事の短い予告編である。一方で、オリジナル記事はユーザーが回遊する中で読まれることが多く、客寄せにはなりにくいことも判明した。
PVをここからさらに上げていくためには『週刊文春』との連携の強化が不可欠だ、と竹田直弘は考えた。
有料課金は「コアなアイドルファン向け」になっていた
一方、『週刊文春デジタル』を担当する渡邉庸三デスクは、有料課金モデルの大きな壁にぶち当たっていた。
当時の『週刊文春デジタル』は加入者七〇〇〇人程で頭打ち状態。月額八八〇円をニコニコチャンネルに支払い、スマホやパソコンで『週刊文春』の記事や直撃動画を読んだり見たりする人間の数は、期待したほどには増えなかった。
気がつけば『週刊文春デジタル』は、コアなアイドルファン向けにディープな情報を提供するマニアックなサイトになっていた。作っている人間が少数であり、テレビ局に直撃動画も売っていたから、赤字ではまったくなかったが、『週刊文春』の記事をスマホで読んでもらおうという当初の目標とは違う方向に進んでいた。二〇一四年春に新谷学が始めたデジタルへのチャレンジは、四年を過ぎてなお、紙の落ち込みを補うには程遠い状況だったのだ。
だがいま、『文春オンライン』は強力なコンテンツを切実に求めていた。『週刊文春』もまた、自らのスクープ力を存分に活用できるプラットフォームを必要としていた。
『週刊文春』に掲載されるのはほかのどこにも出ていない独自ネタばかり。ベッキーもショーンKもインターネットで大爆発した。コンテンツとしては最強だ。
『週刊文春』と『文春オンライン』の連携をもっと深めるためにはどうすればいいのか。渡邉庸三は竹田直弘と議論を重ねた。