PV獲得には『週刊文春』のスクープの力が必要不可欠

「そもそも『文春オンライン』は、文藝春秋という会社全体のプラットフォームとして、宣伝プロモーション局の中に立ち上げられたという経緯があり、社内では書籍や雑誌の宣伝的役割をもっと果たすべきだという意見が強かった。しかし、そういう自社広告記事ではPVを稼げないのが現実でした。かたや『週刊文春デジタル』も現状のままでは大きな収益を上げるブレークスルーはできそうになかった。二〇一八年の秋頃から竹田(直弘)と何度も話し合う中で意見が一致したのは、有料の課金モデルと無料のPVモデルは、別々にオペレーションするのではなく、ひとつの大きな枠組みの中で考えるべきだという方針でした。有料は無料の延長線上にあり、無料の“裾野”を広大にしなければ、ピラミッドの頂上である有料会員の数も増えない。『文春オンライン』が大量のPVを獲得するためには『週刊文春』のスクープの力が必要不可欠、というのが我々の共通認識でした。

だったら、一緒にやるのがてっとり早い。まずは『文春オンライン』をニュースメディアとして勢いをつけてしまおうと。『文春オンライン』が『週刊文春』と同じフロア、同じ局内にあれば、連携はスムーズになるし、スクープ対応もしやすい。『文春オンライン』が週刊文春編集局に入ることは、一見遠まわりに見えても、じつは名実ともに会社全体のプラットフォームになるための一番の近道だというのが、竹田と私が出した結論だったんです」(渡邉庸三)

『文春オンライン』を週刊文春編集局の中に入れようとするふたりのプランは、しかし社内から猛反発を受けた。「『文春オンライン』は本誌、週刊、出版局を横断する全社的なプラットフォームであったはずだ。週刊文春編集局の中に入るのは筋が違う」というものだ。

「紙の雑誌が食われるから困ります」と言われていた

デジタルの最前線で戦うふたりの判断を理想論を掲げて邪魔するべきではなかろう、と社外の私は思うが、この期に及んでもなお、ビジネスの論理とは異なる考えで動く人間も社内には多く、デジタルへの生理的な嫌悪と拒絶もなお存在した。

週刊文春編集局長の新谷学は、渡邉庸三と竹田直弘の合併構想の最大の推進役となった。

「このプランは俺も成長戦略の一丁目一番地として、かねてから上層部に伝えていたこと。現場で数字を背負うふたりが『一緒にやるしかありません』と言ってきたから、俺は改めて上層部に話をした。半ば強引に話を進めざるを得ないところもありました。

反対はものすごかった。オール文春のつもりで作った『文春オンライン』がどうして週刊文春編集局に入るんだ、週刊の軍門に降るのか、と。感情論としては理解できますが、リアルなビジネスを考えた場合、『文春オンライン』と最も親和性の高いメディアが『週刊文春』であることは明らかです。

これまでの『文春オンライン』は『週刊文春』にとっては同じ社内であっても遠い存在だった。お互いに気を遣いながら『この記事を出してもらえませんか?』『いや、それは紙の雑誌が食われるから困ります』と、いわば半身の状態でのやりとりを続けていた。

でも、そんなことでは話にならない。俺たちは本気でデジタルシフトして、デジタルの世界で勝たなければいけない。勝つためには武器を磨くしかない。週刊文春編集局の中に『文春オンライン』を入れれば、同じ部署だからスクープ速報の本数も増やせるし、これがほしい、というネタを最高のタイミングで出せる。スクープという武器をとことん使って、全体を引き上げるイメージです。一見、『文春オンライン』が『週刊文春』に飲み込まれたように見えるかもしれないけど、全社的なバランスを取るのは後からでもできるわけですよ」(新谷学)