「この大変さを放置したままで良い」ということなのか

違う角度の話として、「人はそれぞれ多様だから」「人を好きになるって素晴らしいこと」と言われることもありますが、それ“だけ”では済まされない部分もあります。みんな違ってみんないいのはその通りだけれども、その違いによる大変さが一様であるわけでもありません。別に大変さの競争をしたいわけではないのですが、「多様である」の一言では済まされない、大変さが日常的にあるわけです。

この点については、「his」(2020年公開)という同性愛者を描いた映画に出演した、俳優の藤原季節さんの指摘が挙げられます。藤原さんは映画について「本作は同性愛であっても、登場人物は普遍的な感情を抱いていると思っていたんです。でも、実際に同性愛者の方々と知り合ったり話したり調べたりしていくうちに違うと感じるようになりました」「普遍的な感情というのは、僕らの視点からであって、彼らのなかにはある意味存在していないと思うんです。自分たちが同性愛者だという前提を、なくすことはできない。あくまでも、同性愛者だからこそ抱く好きという気持ちと、そこで直面する壁や苦しみを描いた映画なんだと、今は思っています」と述べています。

このような指摘から考えても、「何も気にしない」「差別していないからそのままでいい」、もっといえば「人と違ってもいいじゃない」ということ「だけ」をあえて言われてしまうと、「この大変さを放置したままで良い」とも受け止められ得るのです。

もちろん、好意的に見れば、「差別はしない」と言うのですから、その人はセクシュアルマイノリティに不利益なことはしない、のでしょう(そう信じたいものです)。しかし、自分が差別的な、もしくは当事者に不利益なことをしなかったからといって、セクシュアルマイノリティの苦境が改善するわけではありません。もし、善意でそのように言っているのであれば、同じ職場で働く同僚の苦境に対して、個人として、管理職として、組織として、それぞれにできることがあります。

なお、このパターンの冒頭のような発言をされていた方が、別の機会に「同性愛者を気持ち悪いと言ってはいけません」との文書の記載に、怒りを表明されている場面がありました。もしかしたら「私は気にしない」との発言の中には、自分の行動や振る舞いを変える気はない、というメッセージを忍ばせている人がいるのかもしれませんね。

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