多国籍企業は税逃れの手法に長けている。京都大学の諸富徹教授は「GAFAなどの多国籍企業は、タックス・ヘイブンに設立した子会社との取引で6000億ドル以上の利益を移転している。これは世界の法人税収の1割にあたり、諸外国の税収減は深刻だ」という――。(第2回/全2回)

※本稿は、諸富徹『グローバル・タックス 国境を超える課税権力』(岩波新書)の一部を再編集したものです。

スターバックスの紙コップとコーヒー豆
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市場価格が定まっていない「無形資産」

多国籍企業がグループ子会社間取引を通じて、利益を高課税国から低課税国に移す操作ができないよう、移転価格税制が用いられている。

これは例えば、子会社Aが子会社Bから法外に高い原材料を購入する対価として、AからBへの莫大な費用が支払われる形を装って利益移転が行われるのを規制するものである。これが利益移転か否かを判定する基準として、課税当局は、取引されている財・サービスの市場価格情報を使う。

つまり、あたかもその財・サービスが、無関係な第三者との市場取引を想定した場合に適用される価格を、多国籍企業グループ企業間の取引に適用する。

もし、その取引を通じて法外な利益移転が行われているならば、グループ企業間の取引価格は、市場価格から大きく乖離かいりしているはずである。こうして利益移転が炙り出されれば、課税局はそれに対して課税処分を行うことができる。

だが、移転価格税制が有効に機能するのは、参照すべき市場価格情報が存在する場合だけである。

知的財産やブランドなどの無形資産は、(1)工業製品などとは異なって、大量の規格品が生産され、広く市場で取引されるわけではない、(2)それを保有する企業と強く結びついて固有の価値を発揮することが多く、市場で価値をつけがたい、などの理由から、そもそも無形資産に移転価格を適用するのが困難だ。

このため経済がデジタル化し、無形資産が収益を生み出す中核的な資本として機能するようになると、移転価格税制の有効性は低下することになった。