※本稿は、横江公美『隠れトランプのアメリカ コロナ感染から奇跡のカムバックでトランプが勝つ⁉』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

トランプ大統領
写真=AFP/時事通信フォト

だれもが「謙虚によく聞いてくれる」と口を揃える

時に期待値が低かったばかりに、その後、評価を上げる人がいる。どん底からスタートしたために、それ以上、評価が下がらなかった、というパターンだ。

トランプは異常に人当たりがいい。トランプにブリーフィングを行った人たちは、意外にも「謙虚によく聞いてくれる」と口を揃える。「独善的な人間である」というイメージが染みついているので、そのギャップに驚く。その効果は大きい。

2020年6月に発売されたジョン・ボルトン元国家安全保障問題担当大統領補佐官の著書にも、「トランプはホワイトハウスに入る前は非常によく話を聞いてくれ、イランに対する考え方の理解も同じであった」と第一印象が綴られている。

私は2000年6月ごろにニューヨークのレストランでトランプを紹介してもらったことがある。初めてトランプが大統領選予備選に立候補した年だ。このときは共和党でなく、少数政党のアメリカ改革党の予備選に名乗りをあげていた。

出会ったのは、パワーランチ(昼食を取りながらミーティングや会議を行うこと)で有名なフォーシーズンというレストランだった。入り口を通ると真っ赤な絨毯が目にとまる。正面にはマホガニーのクローク台があり、左にある階段もマホガニーだ。

2階に上がるとバーがある。左に回るとちょっとした回廊で右側が全面窓で左にはシャガールの巨大な絵が飾ってある。その奥には真ん中に噴水があり、噴水の周りにテーブルがある。水音が適度に雑音をかき消す設計になっているため、隣の席の声は届かない。クリントン夫妻もお気に入りの、ニューヨークの力を象徴するようなレストランである。

自分の価値を知り、凝った演出を厭わない

私は、当時のボスで、世論調査の分野で著名なディック・モリスと妻アイリーンとランチをとっていた。そこに、「ハーイ、ディック」とやってきたのがトランプだった。ディックは「友達のクミだ」と紹介してくれたので、立ち上がって挨拶して握手をした。

そのときは、トランプにとって2番目の妻マーラ・メイプルズと一緒だった。彼女は私が階段を上がったときに、バーでシャンパンを飲んでいた。長身で長いブロンドの髪。そのうえ、脚の長さを際立たせるようなショートパンツとブーツ姿で圧倒的に人目を引いていた。私も思わず見とれてしまった。

モリスとトランプは同じニューヨーク出身で同じ歳。そしてモリスの父親がトランプの父親の弁護士という間柄だ。あとで聞くと、2人はトイレですでに顔を合わせていた。モリスが「お客さんをびっくりさせたいから、テーブルに来てくれ」と頼んだら、気持ちよく応じてくれたのだという。自分の価値を知ったうえで、凝った演出を厭わない。テレビ越しには不遜に見えても、会えば真逆というタイプは好感度が高まりやすい。