デフレ経済の下、消費者の低価格志向はしばらく続きそうだ。業界を問わず、低価格商品を提供する企業が勝ち組となるなか、価格競争がもたらす弊害を筆者は危惧する。

消費者は本当に低価格を求めているか

週末の新聞に折り込まれて配られてくるチラシを見ると、家電量販チェーンの多くは価格訴求の戦略をとっていることがわかる。なかには業界最低価格をうたって、他の店より高かったら差額を返金するという勇気ある約束をしているチェーンすらある。実際に、量販チェーンの勝ち組は、熾烈な低価格競争に勝ち残ったところだ。

改めて言うまでもなく、買い手にとっては、価格は安いほうがよい。しかし、買い手である消費者は本当に低価格を求めているのだろうか。あるいは低価格で消費者の購買を誘引できるのか。この素朴な疑問に答えるには、家電商品のブランド別シェアをじっくり眺めてみる必要がある。低価格ブランドのシェアが高いとは限らないはずだ。にもかかわらず量販店は価格を訴求してしまう。なぜこのようなことが起こってしまうのか。

扱っている商品の性質を考えれば、家電量販店が価格訴求の戦略をとってしまう理由は理解できる。家電量販店が扱っている商品のほとんどはメーカーブランドの標準商品である。商品の機能性能に関して店ごとの違いはほとんどない。そこでチェーンが自社店舗へ顧客を呼び込もうとすれば、低価格を訴求するのがわかりやすい。商品の機能や価値の訴求は、メーカー任せになってしまう。その結果として価格競争が主となってしまう。しかし、小売店は価格以外にも顧客誘引の手段を持っている。品揃え、販売時点でのサービス、販売後のサービスなどである。にもかかわらず価格訴求の戦略が採用されてしまいがちなのはなぜだろう。低価格戦略の危険性は多くの人々に理解されている。

低価格戦略は、いうまでもなく第一に競争している企業を疲弊させる。価格競争に陥ってしまった牛丼チェーンが赤字になってしまったのはその例だ。スーパーの苦戦も低価格戦略がもたらしたものだ。デフレ経済下では低価格でないと顧客は誘因できないと考える経営者も少なくない。しかし、そのように考えてしまうからデフレがひどくなるのだという側面にも注意を向けるべきだ。

低価格競争は小売りチェーンだけでなく、メーカーまで疲弊させてしまうことがある。小売りから低価格での供給を迫られるメーカーは、低価格を求めた開発や生産を行ってしまいがちである。その典型は、生産コストの安い海外での生産である。簡素な製品デザインや量産部品の使用は、メーカー間競争を激化させてしまう。その結果、商品の魅力が低下するだけでなく、開発力も低下してしまう。メーカーも低価格に頼らざるをえなくなる。

低価格競争は競争の質をも劣化させてしまう。第一に、価格で競争している企業は知恵を使わなくなる。低価格戦略は訴求が簡単である。品揃え、サービスなど小売り固有の価値貢献が忘れられてしまう。低価格競争は競争相手さえ見ていれば実行できる。消費者の気持ちや要求を勉強しなくても実行できてしまう。人々は考えなくなってしまうのだ。優れた経営者が価格競争を嫌う理由はここにある。