自民党が行った会社統治制度の改革は企業の活力を削ぐ結果に終わった。民主党政権下でも再び企業統治が議論されているが、そこにもやはり重大な欠陥がある、と筆者は説く。
自民党の会社統治制度改革は失敗
自民党政権のもとで進められた会社統治制度の改革は、経営学者の目から見れば失敗であったと言わざるをえない。日本企業は腰を据えた長期投資をしなくなってしまったし、リスク投資にも臆病になってしまった。これらは、マクロ経済にもマイナス効果だったろう。不祥事を防ぎ経営者の暴走を防ぐことを目的にして導入された内部統制制度は、企業の活力も奪ってしまったのである。海外からの投資を呼び込むために行われた株主志向の改革は、株主の利益にもならなかったばかりか、雇用の不安定化をももたらしてしまった。
民主党政権は、そのマニフェストにあった公開会社法の制定に動き始めた。経営学者の視点からみると、この法律に関しても危惧されることがいくつかある。
もっとも心配なのは、子会社の上場が難しくなる可能性があることである。一部の法学者は子会社上場は、少数株主の権利保護に関して深刻な問題を生み出す可能性があると主張している。個々の会社ではなく、企業グループを一体としてみなすべきだという主張もある。形式論としてみれば妥当な見方かもしれないが、子会社上場が持っているメリットを見逃している。
子会社の上場の第一のメリットは、リスク投資を促進することである。リスクのある成長事業を子会社として上場することによって、上場子会社は、成長事業への投資リスクを負担してくれる資金である自己資本の調達ができる。親会社の側も、所有株の売却によって上場益を得ることができる。親会社は、この一時的利益を社内の他のリスク投資に振り向けることができる。子会社は、親会社からの統制が弱まり、自立的な決定ができるというメリットもある。株主にとっても、子会社株は、時価総額が小さいため値動きが大きく、成長につれて株価の上昇も期待できる。子会社株は妙味があるのである。
子会社上場は、会社統治制度としても優れた点を持っている。市場によるガバナンスと親会社による組織的ガバナンスの欠点を補い合うことができるからである。実際に、親会社よりも業績のよい子会社が少なくない。市場での評価は、多数の人々の意見を集約したものであるという意味で信頼性が高いが、短期の業績に振り回されてしまうことが多い。他方、親会社による評価は、専門知識をもとに長期的評価ができるという利点を持つが、少数の人間が行うという意味で間違いの可能性も高い。