民主党政権でも盛んに論じられている、税制問題。しかし、その議論では消費税にのみ焦点が当たりがちだ。真に必要な税制改革について筆者が説く。

日本の実効法人税率は中国の1.5倍!

法人税率の国際的な推移
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法人税率の国際的な推移

菅財務大臣が、消費税を含めて税体系全体の議論を始めたいと国会で明言するようになった。現内閣では消費税アップはしないと総理が言っている一方で、財務大臣が議論を始めるという。税収の倍以上の国家予算案を議論している国会としては、当然のことであろう。

たしかに不景気で法人税収が大きく減ったのが超赤字予算の原因の一つであろうが、国家の税制に大問題があることは、多くの人が感じていることであろう。しかし、その問題として社会保障の財源としての消費税のアップに焦点が当たることが多いが、同時に法人税率の問題にも焦点を当てる必要がある。財源確保のために法人税を上げるという方向での議論をすべきというのではない。むしろ、法人税を下げ、一方で政府の財源確保のために消費税を大きくアップする必要がある、という方向での議論である。

こうした発言をすると、いかにも金を儲けている企業を優遇し、生活の苦しい一般の人に冷たい税改革、という印象を与えてしまうかもしれない。だが、私の視線はもちろん国民に向いている。法人税を下げることによって、社会の中で富を生み出す基本的な役割を果たしている企業の国際競争力を高め、それによって企業が生み出す付加価値をより大きくし、その付加価値の中から働く人々に分配される賃金を増やしていく、ということを考えての税改革である。

私がこうしたことをこの経営時論で書こうと思うきっかけになったのは、私の前任校である一橋大学のシニアエグゼクティブプログラムで、JFEホールディングスの數土文夫社長に講演をしていただいた際に、數土さんが示された法人税の国際平均の長期データを見たことである。

私ももちろん、日本の消費税が国際水準からすればはるかに低く、しかし法人税は国際水準よりもかなり高いことは知っていた。しかし、1990年に入るとすぐに、世界的に法人税率の切り下げ競争のようなものが起き、日本だけがその競争のらち外で90年代初頭の法人税率を維持し続けてきた、ということは明確に認識していなかった。その不明を自分で恥じるようなグラフを見せられたのである。

このグラフは、世界的な監査法人であるKPMG社の公表データから數土さんが作られたものである。明らかに、世界的に法人税率切り下げ競争が起きている。自国に本拠を置く企業の国際競争力を高め、あるいは自国への新しい企業投資を誘うために、世界の各国が法人税を下げてきている。その結果、2008年の日本の実効法人税率は40.7%でOECD加盟国の中でトップとなってしまっている。OECD加盟30カ国の平均税率は、26.3%、中国の法人税率は25%、韓国は27.5%で、さらにそれを20%まで下げることを検討中、という。

日本だけが法人税率切り下げ競争のらち外にいたこの20年間はまた、日本経済の成長が長く低迷した20年間でもあった。その結果、1人当たりGDPの世界ランキングは下がり続け、また数種の国際競争力ランキングでも日本は大きくその地位を下げてきた。