すると上野さんからは「俺が、俺が」という気持ちがすっと消え、部下の見方も変わった。「彼らなりに一生懸命やっている。それでも車が売れないのには何か理由があるはず」と考える心の余裕が生まれた。それからは部下の声に耳を傾け、自分の経験に基づいた具体的な改善策を示しながら指導するようになっていった。
また、部下一人ひとりの長所を見極め、それを最大限に活かす工夫も始めた。たとえばショールームの展示が得意な部下を、「株式会社ショールームディスプレイ」といった疑似会社の社長に任命する。「新車の入れ替えの際には、私も含めて全員が彼の指示に従う。そうすることでモチベーションがアップする」と上野さんは語る。
いま自動車業界全体が販売不振に苦しんでいるが、上野さんは動じない。「これまで自分がお客さまにしてきたように部下に接すれば、同じ仲間としての信頼関係が生まれ、実績をあげるために最後まで努力してくれる」と確信しているからだ。
実際に率先して後輩の面倒を見るアシスタント・セールス・マネージャーの宮下裕康さん、まだ入社半年ながら10台以上売り上げた古谷峰士さんら頼もしい部下が育っている。「目標達成率は1月が100%を超え、2月も順調だった。今年はこれまでの取り組みの成果を出す年だ」と上野さんは意気込む。
(本田 匡=撮影)