勝負の分かれ目はブロックバスターにあり
それに、検討されている治療薬には重篤な症状が出た人向けのものも多く、無症状や軽症者の多い新型コロナでは、そこまで使われる機会はないかもしれません。そういう意味では、治療薬よりも世界の数十億人が使う可能性があるワクチンのほうが収益を生む可能性が少しはあります。ただワクチンは治療薬よりも開発のハードルが高く、大量に作ることのできる会社も限られます。
そもそも、これまでにない画期的な薬を作るという点において、日本には世界の最先端を走っている製薬メーカーは多くありません。画期的な薬を作るというより、海外で開発された薬を改良して、日本国内で広く販売するビジネスモデルが主流で、研究開発力よりも販売力のある会社のある会社のほうが利益を出せたのです。
しかし、2018年の薬価制度抜本改革で、そういった後から出した「ベターな薬」よりも、これまでにない新しい薬、つまり「ファーストな薬」の薬価が高く設定されやすくなりました。薬価改定は2年に1度ですから、まだそこまで大きな差はついていませんが、今後は国内だけでなく海外でも売れる画期的な薬を開発できなければ、持続的に成長することは難しくなってきています。
この方向性にいち早く対応したのは中外製薬です。02年にスイスのロシュの傘下に入り、抗体医薬品の分野に特化した技術を確立して、すでに他を圧倒する薬効、シェアを誇るブロックバスターも発売しています。武田薬品はこうした取り組みが遅れていましたが、16年に研究開発の体制を大きく変えるなど、グローバルで通用する薬の開発を急いでいます。これらの取り組みの成果が待たれるところです。
(構成=衣谷 康)