「存在感があるのに、存在感を出さない」

なぜ、30年間、アシスタントが遠藤さんでなくてはならなかったのでしょう?

番組終了後、スマホの画面越しに森本に尋ねた。

森本は「ニュースを読む正確さ」と「空気感の見事さ」と即答した。

「日本一のニュースリーダー」「存在感があるのに、存在感を出さない」。短い言葉で森本が称賛し、スタジオの遠藤が小柄な体をさらに縮めた。かつてこの世界には、ニュースは報道畑のアナウンサーにしか読ませないという不文律があった。遠藤が初めてニュースを読んだのは46歳。今もニュースは素人だという思いでやっているという。

フリーアナウンサーの遠藤泰子さん(76)
撮影=今村拓馬
小笠原亘アナウンサーと透明のアクリル版越しに笑い合う遠藤。

鯨井達徳は、20年前にこの番組のディレクターとなり、現在はプロデューサーを務めている。あるとき、マイクに向かう遠藤をブースで見ていた森本が「きれいだなあ」とつぶやいた。「え?」と視線を向けると、森本は音量のメーターを見ている。遠藤の声はずっと同じ音量を保っていた。一定の音量を保つ遠藤のアナウンス技術に森本は驚嘆していた。

「ご本人はそうはおっしゃらないけれど、見えないところでものすごく努力をされてきたんだと思います」(鯨井)

取材の最後、森本が「だけどね、遠藤さんはね、ずるい人ですよ。僕のおかげでいい人になっているんですからね」と混ぜ返すと、スタッフがドッと沸いた。

森本はニュースの本質を追究するため仕事に厳しく、スタッフはいつもピリピリと緊張している。だからこそ番組は聴取率1位を独走しているのだが、緊張感を和らげる遠藤は、得な役回りだというのだ。

「ええ。私、ずるいんですよ」

うふふと遠藤が笑った。

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