靴業界の常識を覆す流通コスト削減術

昨年の話題商品、g.u.の990円ジーンズに続けとばかり、靴にも990円の商品が現れた。売り出したのは「東京靴流通センター」などを展開する靴小売り最大手のチヨダである。婦人・紳士・子供靴を合わせて33種・30万足を990円の定価で揃え、今年3月に一気に発売した。同社で販売する靴の中心価格帯は2000~3000円なので、その2分の1、3分の1にあたる。まさに破格値だ。

「安かろう悪かろうでは売れない。売価2000円の商品と同等の品質を990円で実現した」と、この商品の発案者、チヨダ取締役の白土孝氏は胸を張る。しかも採算度外視ではなく、適正な利益が出せるものであるという。それはなぜか。

2000円の靴が990円に化ける仕組み
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2000円の靴が990円に化ける仕組み

安さの理由には、まず中国・東アジアで製造したプライベートブランド(PB)であることが挙げられる。同社のPB商品はSPA(製造小売りの一貫体制)ではない。「中間事業者の商品企画力は多様な商品展開のために必要不可欠」という理由から、同社では商社などの中間事業者とともに海外の工場へ出向き、生産を委託している。その際の発注ロットは10万足が基準だ。

「靴の製造では、靴底の成型に使う金型をサイズ別に複数用意しなければなりません。また、製造工程ごとに異なる機械が必要で、服の製作などに比べて初期投資にコストがかかります。そのために大量生産を行う必要がある。この10万足という数字は、ウォルマートやペイレスシューソース(米国の大手格安靴小売りチェーン)などと同等の発注数。だから金型代も回収できるし、1足あたりの利幅を薄くしてもトータルでは工場、中間事業者、当社とも収益が見込めるのです」

業界最大手、全国1100を超える店舗で年間4500万足を売りさばく、同社ならではのスケールメリットを存分に活かしたやり方といえるだろう。

また、業界の常識を覆すような、大胆な物流コストの削減も敢行した。

アパレル商品と比べてもサイズ展開が幅広い靴の流通では、店頭商品の欠品が起こりやすく、その補充には当然、手間も費用もかかっていた。しかし販売機会を逃さず、また顧客サービスを充実させるために、欠品はすみやかに補充するのが業界の常識。ところがこの990円靴に関しては、売り切れ御免を合言葉に欠品の補充は一切なし。一度店舗に納品したら、あとは倉庫からの補充も、店舗間で商品を移動させることもない。

「補充が一足であろうと10足であろうと、梱包して荷札を貼るだけで500~600円のコストがかかります。そこに距離に応じて陸送の費用が加算される。ほかの商品では補充を考慮して物流費用を見込んだ価格設定にしてありますが、990円靴では補充を前提にすると利益はほとんど残りません。だから補充は諦めました。価格以上の商品を提供する代わりに欠品はご勘弁願う、ということですね」

こうした物流コストの圧縮は、実は海外の工場から商品が出荷される時点で、すでに始まっている。これまでは、「海外工場から船便で日本に到着→国内倉庫へ陸送→倉庫から各店に納品」という手順を踏んでおり、倉庫の保管コストや陸送コストがかさんでいた。それらをカットするために、海外工場からの出荷時に、日本の各店舗向けに小分けした梱包と荷札づけを済ませ、国内倉庫を経由せずに直接店舗に納品している。

990円靴のデザインはベーシックで万人向けのものが目立つが、それは「補充も移動もなし」という前提のもと、各店で完売させるためだったのだ。