野村ホールディングス副社長(COO) 柴田拓美(しばた・たくみ)
1953年、神奈川県生まれ。76年慶應義塾大学経済学部卒業後、同年野村証券入社。ノムラ・ヨーロッパ・ホールディングPLC社長、野村アセットマネジメント社長などを経て、2008年6月より現職。
ついに、というべきか。やっと、というべきか。
かつてガリバーとも呼ばれながら、長い沈黙を守っていた野村ホールディングスが経営破綻したリーマン・ブラザーズのアジア・太平洋部門を2億2500万ドル、欧州・中東をわずか2ドルで買収した。その3日後、今回の買収劇の立役者、副社長・柴田拓美は世界中から集まった500人を超える野村証券幹部に訴えた。
「世界の金融地図を見てみれば、ここで動けるのは野村だけだ」
香港、ロンドンと2泊5日で駆け巡り、買収をまとめ上げた柴田は「さらにスピーディに動く」とも語った。
慶応大学ESSの代表を務め野村証券に入社した柴田は、海外畑で着実な歩を進める。海外では失敗しか知らぬ野村証券で、「感覚はほとんど外国人」とされる柴田の実績は図抜けていた。
前社長、古賀信行が“なにもしなかった”ゆえにサブプライムでも深手を負うことのなかった野村証券。あるOBなどは、このタイミングでよくぞ柴田が副社長に残っていてくれた、としみじみ語る。
めったに人を褒めることのない金融庁長官の佐藤隆文をして、「これからの日本の証券界を担う」と絶賛される柴田。おそらく世界の金融事情を考えれば、リーマン・ブラザーズの優秀な人材が他社に引き抜かれることは当面はないだろう。その意味では柴田が腕を振るう時間はある。しかし、時間はあっても、株式市場はまた蘇るのか。
腕はよくとも素材に恵まれぬシェフほど悲劇的なことはない。10月2日、インドにあるリーマンのバックオフィス部門の買収も決め、世界の金融市場に乗り出す野村証券。日本の金融マンの壮大な実験が始まろうとしている。(文中敬称略)