50代や定年では「うつ」と同じことが起こる

いっぽう、うつになった自分を心から認めることができた人は、必死に学ぼうとします。学校を休み、職場を休み、いったん、これまで蓄積されたものがゼロにリセットされているから、「なんとかしなければ」と真剣になっています。必死で学ぶから、大きな収穫が得られるのです。

復活のときにカギを握るのが「目標の再設定」です。数カ月休み、出世競争の世界からいったん身をひいた人が社会に戻るときには必ず「目標の立て直し」、つまり、目指す山の見直しが必要になります。これまでのやり方で心が折れてしまったのだから、次からは、目標や、やり方を変えていきましょう、と、私はクライアントと併走しながら復活プランを立てていきます。

お気づきでしょうか。50代、そして定年というターニングポイントには、ほぼ、うつと同じことが起こります。

定年後には、それまで当たり前に期待されていた「役割」がなくなり、組織から与えられていた収入もこころもとなくなります。新たな環境で一から人間関係を結ぶときには、これまで組織で培ってきた価値観を緩めないといけません。組織における生活で硬くなった心、ますます疲れやすくなる体への価値観も緩めなければいけません。このターニングポイントこそ、ゼロリセット。「目標の立て直し」と「歩み方の見直し」が必要になります。

50代こそ「心の整え方」を身につけるべき時期

このように、うつからのリハビリと、定年の乗り越え方は、見事にシンクロしています。

50代は、最適のタイミングです。まだエネルギーもある。うまくいかないときには「次、行ってみよう!」と切り替える柔軟性もあります。今だから、いろいろなお試し、味見ができます。それに、定年までにあと10年近い時間があります。何より、現在のあなたは職場という環境でさまざまな人間関係にまれているので、価値観をほぐす「絶好の練習場」もある。メリットだらけです。

もちろん、定年後にとりかかっても遅くはありません。なにしろ、これからの人生はまだまだ長い。価値観をほぐし、怒りや不安、悲しみといった感情をケアするスキルを身につければ、あなたはもちろん、そばにいる人にもその波紋は広がっていきます。そうやって身につける「心の整え方」は、資産よりも力強くあなたの生涯を支えるでしょう。

下園壮太『50代から心を整える技術』(朝日新書)
下園壮太『50代から心を整える技術』(朝日新書)

うつからのリハビリの中で、数多くの失敗、練習、学びの経験を重ねた人は、薬もカウンセリングも必要なくなる、うつからの卒業のタイミングになったとき、すっきりした表情で「先のことはわかりませんからねぇ」と言うようになります。

いくら入念に準備をしても、いろいろな予想外の事態が起こるのが現実社会というもの。必要以上に将来を悲観しても、準備に必死になっても、仕方がないところもあります。

我が身に起こるいいこと、嫌なことも「ほどほど」に楽しめるようになる、それが目指すべきゴールです。

50代というターニングポイントを大切に取り扱いましょう。今のあなたにできる「小さな一歩」を試してみましょう。経験を重ねるうち、「このくらいのバランスが、自分はそこそこ幸せだな」というラインがわかるようになります。私もそんなシニアとして歳を重ねたい。

ぜひ、あなたも「そこそこ幸せシニア」を目指して、一歩、前に進みましょう。

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