退職という環境変化は大きなストレスになる

私は、陸上自衛隊で、隊員たちのメンタルヘルス教育を担当する「心理幹部」として、20年間勤務してきました。うつやコンバット(惨事)ストレスへの対策を考えたり、「自殺・事故のアフターケアチーム」のメンバーとして300件以上の自殺や事故のケアに関わってきました。2015年に56歳で定年退職し、現在もカウンセリングを続けています。

自衛隊は退職年齢が早く、54歳から56歳の「若年定年制」を採用しています。そんな中で私は自分を含め、退職後の人たちがどのような状況になるのかを、この5年間つぶさに見てきました。再就職先になじめた人もいれば、うまく適応できずうつっぽくなったり、辞めてしまった人も多い。そんな私自身も、退職という環境変化にストレスを受け、予想外の体調変化に戸惑いました。

私自身、42歳のときにうつになり、精神科を受診し、1カ月の休職を経験しました。元の自分に戻れた、と思えるまでに、1年間のリハビリを必要としました。そのとき、うつについてすでにわかっているつもりでいたのに、支援者として「外側」から見るのと、当事者として「内側」から見るのとでは、こんなにも見える景色が異なるのだ、と驚きました。結果的に私はうつ状態から回復することができ、その経験を糧にすることができていると思っています。しかしいっぽうで、なんとなく生涯にわたってずっとうつっぽさを引きずってしまう人も多いのです。

うつから復活する人と引きずる人の違いは?

多くのケースを支援してきて、うつから復活する人、引きずる人、その違いは、「人間への価値観を緩められるかどうか」だと感じます。人はうつになったとき、何を学んで立ち上がっていくのでしょう。

自分も他者も含めて「人間というものは、なかなか思い通りにはならないな」「理屈で理解しようとしても、感情に振り回されるものなんだな」という現実をしっかり認めて受け容れられた人は、必ず復活し、その後のストレスに対しても簡単には折れない心の軸を身につけていきます。

ところが、「うつになった自分」を認められないまま、治療を受けたり職場環境の調整で「表面的に復活」した人は、その気になれば困難は克服できる、と、自分にも他者にも相変わらず厳しいままです。無意識的に、うつだったことを「自身の人生の汚点」ととらえています。自分に対する価値観、人に対する価値観を緩めることができないので、大きなストレスに遭遇したとたんに対人恐怖や自信の低下が強くなり、再びうつに吸い寄せられていきます。