イノベーションのジレンマ』(翔泳社)の著者で、ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授が2020年1月に亡くなった。クリステンセン教授の論文は、アップル、アマゾン、インテルといった大企業に深い影響を与えている。その功績を教え子であるIMDのハワード・ユー教授が綴る――。
クレイトン・クリステンセン
写真=The New York Times/Redux/アフロ
クレイトン・クリステンセン氏

聡明な人でさえ、成功し続けるのが難しい

「なぜ多くの優れた企業が失敗するのでしょう?」

クレイトン・クリステンセン教授は、ハーバード・ビジネス・スクールの博士課程のあるセミナーで学生たちに問いかけました。クラスにはわたしを含めて、ビジネススクールの教授を目指す数十人の新入生がいました。当時のわたしたちは世間知らずで、実際のビジネスについてはほとんど何もわかっていませんでした。

クリステンセン教授が「緻密で洗練された経営理論のお手本のような仕事だ」と絶賛した、ハワード・ユー教授の最新刊。「なぜ多くの優れた企業が失敗するのか」というクリステンセン教授の問いに対する一つの答えでもある
クリステンセン教授が「緻密で洗練された経営理論のお手本のような仕事だ」と絶賛した、ハワード・ユー教授の最新刊。「なぜ多くの優れた企業が失敗するのか」というクリステンセン教授の問いに対する一つの答えでもある

「わたしが知りたいのは、無敵だと思われていた企業のほとんどが、10年から20年後には、業界の中位または下位に転落するのはなぜなのか、ということです。わたしは大企業のCEOを何人も知っていますが、彼らの聡明さは衰えを知りません。企業の業績が絶好調である間は彼らの知性が称賛されますが、業績が悪化すると愚かさを批判されます。しかし、わたしは人間の知性の振れ幅がそれほど大きいとは思えないのです」

「そこで問うべきは……」

クリステンセン教授は黒板を見つめ、チョークを拾い上げて続けました。

「それほど聡明な人でさえ、成功し続けるのが難しいのはなぜなのか?」

これこそがまさに「イノベーションのジレンマ」でした。つまり、「正しく行う」ことが失敗を招くのです。