ジェフ・ベゾスが人に勧めるほどの論文

1997年、グローブは、ラスベガスで開催されたCOMDEXの大勢の聴衆の前で『イノベーションのジレンマ』の本を掲げ、これは自分がここ10年間に読んだ「最も重要な本」と言いました。同じ年、グローブは経営学アカデミーの年次会議で基調講演を行いました。これは、学者だけが熱心に参加する学術会議のようなものです。

彼はここでもクレイの本を持ち出し、「失礼な言い方かもしれないが、学者の書いた本で役に立つと思った本はない。この本以外は」という趣旨のことを言いました。

聴衆の教授たちは、ひきつったような笑いを浮かべたあと、顔を曇らせたことでしょう。クレイの論文は一流の学術雑誌に一度も掲載されたことはありませんでした。それは周知の事実でしたが、クレイはそのことを恥じてはいませんでした。

一方、クレイの論文は、アマゾンのジェフ・ベゾスCEOが人に勧めるほど気に入り、アップルのCEOだったスティーブ・ジョブズに深い影響を与え、インテルを破滅から救いました。その論文はハーバード・ビジネス・レビューがこれまでに発行した中で最もダウンロードされた論文となりました。

クレイはわたしたちの時代の最も影響力のある経営思想家とされ、世界に新しい見方を与えました。それでも著名な学術雑誌にクレイの論文が掲載されることはありませんでした。

名声とアカデミアからの距離

アカデミズムから距離をとった経営学者はクレイだけではありません。競争戦略のマイケル・ポーター、ブルーオーシャン戦略のチャン・キム、チェンジ・マスターのロザベス・カンター、そして最近ではビジネスモデル・カンバスのアレックス・オスターワルダーらも、論文を一流学術誌に発表することはほとんどありません。

一方で、アカデミズムの外では、企業のマネジャーレベルで『Administrative Science Quarterly』『Strategic Management Journal』『Academy of Management Reviewといった学術雑誌の名前を知っている人はほとんどいないでしょう。医学、法律、および工学の分野では見られないこの断絶には、多くの原因があります。

その理由が何であれ、つまりはこういうことです――賢い人たちは誰も興味がないような質問に答えるために人生の時間を費やし、そうやって得られた自分の洞察を書いたとしても誰もそれを読まない。