インテルCEO「学者が書いたつまらんものを読む時間はない」

クレイは自分の理論を掘り下げるために多くのケースブックを書きました。業界の未来を予測し、医療、幼稚園から高校までの教育、そして高等教育の調査などを行いました。彼は国家の繁栄の原因を分析し、最終的に生命とその意味までも研究対象としました。

彼は経営陣がよい判断ができるようにと彼の理論を実践するためのコンサルティング会社Innosightを設立しました。ハーバード・ビジネス・スクールで最も人気のあるMBAのクラスを教えながら、彼はベンチャー企業に種をまき、ディスラプティブな可能性のあるスタートアップに投資しました。

わたしはクレイの別の授業で、彼がインテルのCEOだったアンディ・グローブと最初に会った時の話も聴きました。彼らの邂逅は、『イノベーションのジレンマ』が出版されるずっと前のことです。インテルの社内の誰かが、クレイが書いたハードディスクドライブ業界についての学術論文を読み、グローブにクレイに会うよう進言したのがきっかけでした。クレイの役割はグローブにインテルがどのように凋落していくかを説明するというものでした。

「10分やろう。インテルについてどう思うか説明してくれ」

グローブは野心あふれる半導体エンジニアらしく、ぶっきらぼうに言いました。

「学者が書いたつまらんものを読む時間がないんだ」

何をすべきかではなく、どのように考えるか

クレイは半導体について何も知りませんでした。しかも相手はインテルCEOのグローブです。そこで彼は次に何をすべきかを語るのではなく、別の業界を事例を使ってわかりやすく説明しましょう、と言いました。

彼が選んだのは鉄鋼業界です。電炉メーカーは高炉メーカーよりも鉄筋を安く製造する技術で頭角を現しました。高炉メーカーは低マージンで低品質の製品を自分たちはもうつくらなくてよくなったと歓迎しました。その後、電炉メーカーはみるみる力をつけ、高炉メーカーの市場を奪いました。

クレイがそこまで話すと、「もういい」とグローブが話を中断しました。

「クレイ、つまりインテルの敵はAMDということか。新しい部門を設立し、ローエンドの製品を投入する必要があるな」

そこから比較的廉価なパソコン向けのCPU、Celeronが開発されました。Celeronは同社の歴史の中で最も生産量の多い製品となりました。

「わたしはアンディに何をすべきかを伝える立場ではありませんでした。その点についてはわたしから言うことはなかった」とクレイは言いました。

「でもわたしには理論がありました。わたしの理論を通じてわかってもらいたいことがありました。……わたしはアンディに何をすべきかではなく、どのように考えるかを教えたのです」