ところで育毛・発毛剤市場は10年前、毛乳頭細胞に働いて毛の成長を促すミノキシジルを配合した大正製薬の「リアップ」の発売によって520億円まで急伸長したもののブームが去り、07年には330億円にまで落ち込んだと言われる。プロペシアは処方薬で医療医薬品のためこの数字にはカウントされていないが、「05年の発売当初に掲げた売り上げ目標は100億円でしたが、参照処方価格で07年には110億円を達成しました」(万有製薬)と胸をはるだけに、薄毛に悩む人たちからは高く評価されているのだろう。
この人気の背景には、脱毛のメカニズムが解明されて「毛が生えてくる」ことのエビデンスがあることも事実だが、もう一つの理由として使い勝手の問題もある。1日1回飲むだけで手間がかからないことだ。市販されている育毛・発毛剤は「決められた量を毎日朝晩2回、頭に振りかけ、それを6カ月間続ければ効果がある」と各社ともほぼ似たような説明書きである。
しかし、体験した人ならわかるが「毎日朝晩2回」というのが思ったより面倒なもの。酔って帰ってそのままバタン、朝寝坊して櫛でとかす間もなく玄関で靴を履き――といったパターンは少なくない。しかしプロペシアの飲み方は、食前でも食後でも食中でも、一定の時間帯さえ決めておけば1日に1錠飲むだけでOKなのだ。
ドラッグストアで買える市販の育毛剤と違い、処方薬ということで使用するには医師の診察が必要な点で二の足を踏む人もいるだろうが、考えようでは医師の判断を仰ぐだけに、きちんとその効果や安全性が担保されるとも言えよう。
ところでプロペシアが内服薬であるなら、育毛外用剤と併せて使ったらもっと発毛効果があるのではないかと、つい禿げの悩みにはまった男の欲深さで考えがちだが、実際のところ効果はどうなのか。
「たとえば市販薬の医薬品にミノキシジルがありますが、作用機序がフィナステリドと異なる発毛作用なので、併用する価値はあると思います。フィナステリド単独より併用したほうが発毛効果があるという論文もあります」(>>前出・五十嵐部長)
プロペシアは健康保険適用外のため自由診療で、処方価格は1錠250~300円が相場になっている。このため他の育毛剤と併用すると1カ月で1万円前後はかかることになる。お金のかけ方も禿げの悩みの深さとの相関関係にあるのかもしれないが、自分でも薄毛対策に挑んだ鈴木先生(前出)がこうアドバイスする。
「毛髪のケアはさまざまですが、何を選択してもお金、時間など、ある程度の負担を強いられます。薄毛で悩んでいる人、その改善を望む人は、その負担が決してむだにならないよう、きちんとした情報、知識を得ておくことが大切です。まずは、医療機関で正しい知識をもった医師に相談してみることです」
いずれにしても育毛や発毛は治療による変化が実感できれば長続きするし、家族など周囲の客観的評価もモチベーションを高めるものだ。禿げの人が少しくらい髪が増えたって、禿げていることには変わりがない。このため周りの人は、毛が多少生えてきたくらいで話題にするのは失礼だという思いもあるだろう。が、心配は無用。なにしろ少しでも生えてきたことに当事者は喜びを感じているもの。励ます意味でも「少し毛が増えたみたい」と気軽に声をかけてあげていただけないものだろうか。