ただ、時代によっては鈴木敏文氏(セブン&アイCEO)のように、参謀からトップに昇るケースがあってもいい。

近年の日本において、先が見えないいまほど参謀が求められている時代はない。低迷と変革の渦中にあるいま、不振な企業ほど参謀が必要となる。なぜなら弱者の特権は考え抜くことだからだ。日露戦争において、世界一の陸軍と世界有数の強力な海軍を誇り、それゆえ深く考えなかったロシア相手に、日本の海軍は参謀が考え抜いて負けない戦争を遂行した。いま多くの企業にとって、時代はその当時の状況と似ている。

優秀な参謀が求められる現代にあって、それはどうすればつくれるのか。答えは「リーダー次第」だ。参謀とは、トップあっての参謀なのである。参謀あってのトップではない。

トップの器が大きければ参謀もスケールの大きなシナリオを書くことができる。トップの器が小さければ、いかに優秀な参謀がいようと、シナリオは小さくなってしまう。コストダウンやボーナスカットといった類の仕事で終わってしまうのだ。また、変人の異才を“常識的な周囲の目”から庇護することもトップの役目だろう。

さらに、トップに必要なのは参謀に任せる勇気を持つことだ。日露戦争時の東郷平八郎司令長官、加藤友三郎参謀長は、作戦をすべて作戦参謀の秋山真之に一任した。

ビジネスの場では、たとえば部長の座にあれば、トップからは参謀の役割を期待され、同時に、課長など部下に対しては自分の優秀な参謀であることを求めるという立場に置かれることになる。

自分が参謀となるには考え抜く力を磨くこと。徹底的に学ぶこと。一方、参謀を育てるには上に立つ者の器次第であることを肝に銘じるべきであろう。

(小山唯史=構成 早川智哉=撮影)