たとえば、パワハラが争われた場合でも、「長年にわたって上司から不適切な発言を受けた。だから200万円を慰謝料として求める」というだけでは不十分だ。具体的に、いつ、誰が、どのような発言をしたのかなどの特定を要する。

クレーマーは、行為を特定することがなかなかできない。ひたすら「これまでのやりとり」という抽象的な発言にこだわる。そういうときは「具体的な行為が不明のままでは慰謝料と言われましても、検討しかねます」と断ればいい。

慰謝料には内容によって相場観がある

仮に会社にミスがあって慰謝料を支払うことになったとしても、金銭的評価については慎重な判断を要する。慰謝料は、「精神的苦痛」というカタチなきものを金銭的に評価するものであるため、明確な評価基準がない。同じ行為を受けたとしても、強く傷つく人もいれば、さして気にしない人もいる。

そのため、慰謝料といっても相場観というものがある。これは過去の類似した判例から集積されたものだ。類似した事案で過去に慰謝料として認定された額を基本にしてしかるべき慰謝料を検討していくことになる。

たとえば、不貞が原因で離婚となった場合の慰謝料は、だいたい150万円から200万円といったところであろう。300万円を超える慰謝料というケースはあまり目にしない。もちろん、実際には行為の内容や被害の程度によって異なるが目安というものがある。

たいていの場合、クレーマーの想定する慰謝料の相場は裁判所の相場を大幅に超えている。言われるがまま支払っていたら、クレーマーをさらに助長することになる。いっそ訴えられて適切な損害を確定してもらうのもひとつの手だ。

慰謝料を支払う場合には、事前に弁護士に相談して、事案の内容から適切な賠償額なのか確認することをお勧めする。

押さえておくべき賠償交渉のプロセス

それでは、賠償金を支払うとなった場合の具体的なプロセスについて要点を押さえておこう。ポイントになるのは「事実の確認とカタチの確保」である。

たとえば、飲食店で、顧客から「(食事後)体調が悪くなったので、医者に行こうと思うから、いくらか支払え」との苦情が出されるときがある。経営者としては、身体のことであるから心配になり、すぐに「わかりました」ということになる。

だが、本当に体調が悪くなったのかどうかはまだ確認していない。しかも、相手が実際に病院に行くのかもわからない。

したがって、この段階では「病院に行く」ことを前提にして話を進めるのは必ずしも適切ではない。まずは病院に行ってもらう。カネを支払うには、その根拠をはっきりさせなければならない。

治療費についても一旦立て替えてもらって、領収書と引き替えに支払うべきだ。治療費を用意できないというのであれば、病院に事情を説明して会社が病院に支払うということでもいいだろう。領収書もない状況で相手に治療費を支払うのは避けるべきだ。