「被害にあった」という主張だけでは賠償を求められない

損害賠償を請求するには、あたりまえのことだが、具体的な根拠が必要である。クレーマーが単に「自分が被害にあった」と主張するだけでは、損害賠償を求めることはできない。

いかなる加害行為があったのか。それは誰かのミスによるものであるのか。本当に損害が発生したのか。そういったことを緻密に確定していかなければならない。

これはクレーマーから損害賠償を要求された場合においても同じである。いかなる事実が発生したのかもはっきりしないまま、相手に金銭的給付をするべきではない。それはかえって相手につけ入るスキを与えることになる。

しかも損害額について、クレーマーの言われるまま支払ってはいけない。本当に損害が発生したのか、その損害は会社のミスと因果関係があるのかを根拠に基づいて確認してからの支払ということになる。

根拠のない要求に応じる必要はない

会社として支払うべき賠償額は「損害として妥当なもの」であって、「クレーマーが損害として主張するもの」ではない。慣れない経営者は、相手から領収書の提出もないまま、治療費やクリーニング代を支払ってしまう。

これでは相手が本当に負担したものであるのかわからない。支払うときには、根拠をきちんと押さえておかなければならない。そうしないと、言われるがまま負担することになる。

金銭的要求を目的とするクレーマーに限って、「お金の問題ではない」と口にすることが多いから不思議だ。そのようなときは「金銭的な解決は一切求めないということでいいでしょうか」とあえて念を押してみるといい。そのときの反応で相手の本心もわかる。

もちろんケースによっては、金銭的解決がやむを得ない場合もある。ただし、金銭的解決ありきの解決方法には十分注意していただきたい。

「慰謝料を支払え」に尻込みしてはダメ

クレーマーが金銭的要求をする場合、「慰謝料」という言葉をチラつかせてくることが多い。「慰謝料」という言葉は珍しいものではなく、誰しも知っているだろう。交通事故の慰謝料、離婚時の慰謝料、ハラスメントの慰謝料など、様々な場面において慰謝料は交渉の対象になってくる。

もっとも「慰謝料とは何か」と踏み込んだとき、明確な説明ができる人はそれほど多くない。我々は、このように定義が曖昧な言葉を「あたりまえの言葉」として利用していることが少なくない。正確な意味を把握しないまま利用しているがゆえに、かえって間違った影響を受けることがある。