クレーマーから「慰謝料を払え」と指摘されると、それだけで「自分に非があったのではないか」と考えるのは拙速にすぎる。これでは慰謝料は言った者勝ちということになってしまう。そういうものではない。慰謝料は、ある行為によって受けた精神的苦痛を金銭的に評価したものである。

慰謝料を求めるための3つのプロセス

クレーマーが慰謝料を請求するには、以下の3つのプロセスを経る必要がある。

①会社として何らかのミスがあったこと
②会社のミスで精神的な苦痛を受けたこと
③精神的苦痛を金銭的に評価すること

クレーマーの特徴は、思考のプロセスを経ることなく、とりあえず慰謝料を要求してくるところにある。たとえばクレーマーから「慰謝料を支払え」とプレッシャーをかけられたとしよう。こういうときにはたいてい具体的な金額の提示はない。

ひたすら「慰謝料を支払え」というものだ。弁護士が慰謝料を請求するときには、一般的に行為を特定したうえで慰謝料として「○○円を支払え」と明示する。クレーマーから具体的な金額の指摘がないことこそ、内容について精査していないことの表れだ。

主張を書面で提出させる

では、実際にクレーマーから慰謝料を要求された場合の対応について検討していこう。

まずは「当社のいかなる行為によって精神的苦痛を感じられたのでしょうか。恐れ入りますが、具体的な行為を整理して書面にてお伝えください。社内にて確認させていただきます」という反論から始めてみるといい。

クレーマーは、自分の満足感を得ることが目的であるため、体系的に何かを要求し、説明することが苦手だ。時間の経過によって主張が変わってくることも珍しくない。

クレーマーは「いかに自分を有利にできるか」という観点から、担当者の様子を見ながら場当たり的な対応を実施する。「全体としてどうか」ということに興味はなく、「この場で有利になればいい」という判断が先行する。

担当者にとっては、主張が変化していくことがストレスの要因にもなってくる。だからこそ、「何をもって慰謝料を主張しているのか」を確定させるといい。しかも発言内容がぶれないよう、書面で提示してもらうべきだ。

具体的な説明がないなら支払う必要なし

おそらくクレーマーからは「これまでのいろいろな経過だ。わかるだろう」と反発を受けるかもしれないが、気にすることはない。訴訟において、慰謝料を請求する際には具体的な行為を特定する必要がある。

行為を特定しなければ、反論する対象が設定できないからだ。単に「これまでの一連の流れで辛い思いをした」というのであれば意味がない。