小池都知事は「固まったわけではない」と言うが…

水面下ではすでに構想の具体化に向けた動きが始まっているようだ。読売新聞は11月19日、東京都が2020年度予算案に、銀座と臨海部を結ぶ地下鉄新線の事業計画策定に向けた調査費を計上する方針を固めたと報じた。

東京都は2018年4月、東京オリンピック後の鉄道整備を見据え、JR東日本の「羽田空港アクセス線」や東急電鉄の「蒲蒲線(新空港線)」、地下鉄8号線(有楽町線)の「豊洲~住吉間延伸」など、都内6路線の事業化のための財源として、「東京都鉄道新線建設等準備基金」を設置している。

ただ「臨海部地下鉄構想」は現時点では、この6路線には含まれていないため、読売新聞の報道が事実であれば、東京都の大きな方針転換を意味することになる。しかし、どうもまんざら根拠のない話ではなさそうだ。

実は読売新聞は今年4月にも、東京都が臨海部に地下鉄新線を整備する方針を固めたと報じている。直後の定例会見で記者に問われた小池都知事は、整備方針が固まったわけではないと断りつつも、「都としても臨海部のアクセス強化の重要性は認識している」とコメントした。

こうした報道への対応としては前向きな印象を受けるが、むしろこの記事は、知事周辺から観測気球としてリークされた情報だと見た方がいいだろう。

バス、次世代路面電車、そして地下鉄へ拡大

この構想は今年になって突然出てきたものではない。2016年、有識者が今後の交通政策について審議する国土交通大臣の諮問機関「交通政策審議会」が取りまとめた答申「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について」の中で、国際競争力強化の拠点である都心と臨海副都心とのアクセス利便性向上を目的とした「都心部・臨海地域地下鉄」として既に示されている。

さらにこの答申のベースとなったのが、2014年から2015年にかけて中央区が実施した「都心部と臨海部を結ぶ地下鉄新線の整備に向けた検討調査」だ。

東京圏の鉄道整備は、各事業者が勝手に進めると収拾がつかなくなり、利用者にとっても不利益になるため、先述の交通政策審議会がおおむね15年に1度とりまとめる答申に沿って進めることになっている。答申の挙げる「整備リスト」に盛り込まなければ、向こう15年の事業化は事実上困難になるため、このタイミングにあわせて新線構想が盛り上がる。

中央区は2011年から銀座と晴海を結ぶ次世代型の路面電車LRT(軽量軌道交通)の整備の検討に着手し、2013年に「基幹的交通システム導入の基本的考え方」をまとめている。この中では、銀座と晴海を結ぶBRT(バス高速輸送システム)を導入し、利用者の増加とともに、段階的にLRTに転換していくという計画であった。ちなみにこの構想は2022年度に本格開業を予定する「東京BRT」として実現する予定だ。