月1回、「元気?」と電話する
国際大会の招致活動で最も大切なことは、投票権を持った人たちとの「関係づくり」だと思います。実際に投票行動をしてもらうためには、彼らの信頼を勝ち取り「この人の言うことなら信じて投票しよう」というレベルにまで持っていかなければなりません。これは一朝一夕にはできないことです。
招致活動にはガイドブックがあるわけでもなく、過去の前例などもほとんど知る機会がないので、手探りのスタートでした。そんな中で、私に最初のヒントを与えてくれたのはIRB(現ワールドラグビー)のCEOだったマイク・ミラー氏でした。
ミラーさんは「招致活動で大切なのは、人間関係を日常的にcultivate(耕しておく)ことだ」というアドバイスをしてくれました。ある日突然、いきなり頼んでも人は動いてくれない。月に1回は、何の用事がなくても「元気?」と電話をかけて関係づくりをしておくべきだということでした。私は彼のアドバイスに従って、主要協会の担当者に電話作戦を始めて、まずは自分の名前を覚えてもらうことからスタートしました。
海外でのロビー活動では、実際に先方と会って名刺を受け取ってもらうことからはじまって、次に会ったときは「ハイ、コウジ」とファーストネームで呼んでもらえるような親しい関係を築かなければなりません。パーティーや会食の場でも、いろいろな話題を持っていることが役に立ちます。ラグビーの話だけでなく、音楽やアート、ワインの話など、引き出しが広ければ広いほど共通の話題が見つかり、親近感が強くなります。
もうひとつ招致で大切なことは、「自分たちが相手のどう見られているか」ということです。招致団はどうしても、自分の言いたいことをアピールしがちですが、常に相手の視線や発想を意識しておくことが大切です。
2004年の秋にウェールズ協会の理事会でプレゼンテーションをしたあと、日本代表とウェールズが試合をしたのですが、98対0で完敗しました。夜になってウェールズのチェアマンとパブで飲んでいると、だんだん彼が饒舌になり、「あのね。100点ゲームで負ける国にワールドカップが行くと思うかい」と言われました。これが彼の本音でした。