高卒たたき上げで社長にまで上り詰めた還暦間近の高級楽器商が、2300万円の業務上横領の疑いで逮捕された。この裁判を傍聴した北尾トロさんは「被告人はフィリピンに7000万円相当の豪邸を持ち、学校経営なども手がけていた。社長と呼ばれる快感を忘れられなかったのだろう」という——。
高卒たたき上げの高級楽器店社長(58歳)の「別の顔」
楽器商(58歳)が、顧客から預かった楽器の売却金2300万円を自分の懐に入れた事件を傍聴した。事件が起きたのは2015年だが、被告人は売却後、海外に逃亡し、フィリピンのマニラで3年間以上生活していた。
長期間捕まらなかったのは、警察に逃亡先がバレていなかったから。逮捕されたのは、現地でトラブルを起こし、2019年3月に強制送還されたためだ。被害者の泣き寝入りで終わるかに思われたところ、運良く容疑者を捕えることができて、警察もホッとしたことだろう。罪状は業務上横領。犯行当時の肩書は代表取締役だったが、現在は無職、住所不定となっている。
どういう事件だったのか。検察の冒頭陳述と被告人の陳述を基に概要を整理してみよう。
被告人は高校卒業後、楽器の修理などを行う会社で働いていた。はっきりとは言わなかったが、職人というより営業やマネジメントを得意としていたようだ。