被告人の社長はフィリピンに7000万円の豪邸を所有
そこへ委託販売の依頼がくる。希望価格2000万円のバイオリンと同700万円のチェロ。楽器にはコレクターがいて、名器であれば不況といっても売りやすい。案の定、買い手がついた。前者が1500万円、後者は希望価格以上の800万円だ。
<この金があればひと息つける>と悪魔が囁いたのだろう、売上金を手にする頃にはその金を懐に入れる気満々になっていた。被告人は、「すべて会社のために使った」と言うが、信じる気にはなれないのは、その後の行動が無責任だったからだ。
売り主からの問い合わせを嘘でごまかし、振り込むと言って振り込まない。揚げ句、店を閉店して商売をやめ、警察沙汰になる前にフィリピンへ高飛びするのだ。いかにも計画的犯罪のように思える、もしかすると余罪もあるのではないか。
どうしてフィリピンだったのか。ここで被告人の口から驚きの事実が出てきた。
「フィリピンには妻と家族がいました。景気が良かった2002年に3200万ペソ(約7000万円)で買った家もありました」
海外に豪邸を持っていたが、手元には一円もなく、やむなく売上金を横領して出国したという。
「返済のメドが立ち次第、売り主に連絡して支払うつもりでした」
それを信じろと言われても無理があるが、この被告、楽器を委託した被害者のひとりに120万円を払っており、気にはしていたようだ(もうひとりにも一部を返そうとしたが断られた)。といっても、真摯に反省してというよりは、できることなら返済し、日本に戻れるようにしたのではないかと勘繰ってしまうのだが。
マニラで人材派遣業や、学校経営の日系企業の社長も
フィリピンでは素知らぬ顔で英文の日本語訳や日本語教師、日本にフィリピンの人材を派遣する仕事をし、なんと学校経営をしている日系企業の社長を務めていた時期もあったらしい。逃亡者らしからぬ成功ぶりだが、新たな問題が発生する。妻と離婚して虎の子の不動産を取られてしまい、それを不服として裁判を起こしたのだ。
海外逃亡中の犯罪者の身でありながら、身を潜めるどころか、資産取り戻しのために元妻を刑事告訴したのである。裁判は公的な場で、当然本名で告訴する。それが日本に伝わり、あえなく強制送還→逮捕となったのだ。
訴えられたならいざしらず、自ら公の場に出ていくなんて、捕まえてくれと言っているようなもの。リスクを犯してでも、家を取り戻したかったのだろう。「家を取り返したら返済金にするつもりだった」と繰り返すが、僕には金に執着するあまり理性を失ったとしか考えられない。裁判はまだ途中だし、犯罪者だったとなれば勝ち目はないのではないか。